よく耳にしますし、普段よく使う言葉「大丈夫」。
写真は、父の書いた「大丈夫だよ」という書です。
「大丈夫」という言葉について、深堀りしてみようと思います。

Daijoubu da yo(大丈夫だよ)Calligraphy by 筑芳(Chikuho)
Means “It’s all right” or “Everything will be okay.”
In Japanese, this phrase carries a sense of quiet reassurance and gentle strength.
「大丈夫」の語源は?
「大丈夫(だいじょうぶ/だいじょうふ)」は、もともと 漢語「大丈夫」 に由来し、古くは 「偉丈夫」「立派な男子」 を意味する言葉だったそうです。
漢語「大丈夫」
『大辞泉』:「大丈夫」項には、古義として「立派な男子・偉丈夫」の意が示されており、「だいじょうふ」と読む。
『大辞泉』および『日本国語大辞典』:「大丈夫」は「丈夫」の美称語に由来する語であると説明されています。
中国の儒教経典『孟子』には、「富貴不能淫,貧賤不能移,威武不能屈,此之謂大丈夫」とあるように、財富・地位・武力にあってもその志を曲げない人物の理想像として用いられていたともあります。
『孟子』における「大丈夫」
儒教思想・古典解説記事でも取り上げられており、孟子が「景春」に問われた「一怒すれば諸侯が恐れ、安居すれば天下が平穏になる人物は大丈夫ではないか」という問いに対し、「それだけでは真の大丈夫といえない」と論じる形式で用例がある。『孟子・滕文公下』に、「富貴不能淫,貧賤不能移,威武不能屈,此之謂大丈夫」という一節がある。これによって「大丈夫」が志を曲げない人物を指す概念として用いられている。
その言葉が日本に伝わり、「大丈夫」が「しっかりしている」「丈夫である」などの形容動詞的用法に展開。さらに「間違いのない・安心できる」意味にも発展したそうです。
日本語における意味変遷
『日本国語大辞典』:「大丈夫」が「丈夫」の強意形として始まり、中世以降、形容動詞・副詞的用法が発達した語。
コトバンク:最初は「偉丈夫・立派な男子」を意味した後、形容動詞用法として「丈夫である」「しっかりしている」などの意味を得たこと、その後「間違いない」「安心できる」意義も含むようになった。
それが近代になり、「大丈夫だよ」「大丈夫です」のように 応答・承諾・否定の婉曲表現 として使われる用法も広がりました。
つまり、「大丈夫」というのは人のあり方を表す言葉だったものから、現在のような表現に変わってきたのですね。
仏教語としての用例もあり、「偉大な悟った者・菩薩/仏」を指す意味で用いられることもあるそうです(宗教的・尊称的用法)。
日蓮宗ポータルサイト+
そして現代の国語辞書(大辞林・大辞泉・日本国語大辞典等)では、主に「(1)しっかりしているさま、あぶなげなく安心できるさま/(2)間違いがなく確かなさま/(派生)可能・不要を表す応答語」と記されています。
「大丈夫」の使い方
近年になり、例えば「いりません」を表現するときに、「大丈夫です」を使ったり、できるかどうかの問いに「できます」「がんばります」という意味を含めて、「大丈夫です」と返答する場面も多いので、辞書記述上の課題でもあるようです。
それだけ、たくさんの場面で使われる言葉です。
よく女性の「大丈夫」という言葉は、実は「大丈夫ではない」「だいじょばない」という意味が隠れているとの話も出ますよね。
実際、無理している時に「大丈夫」と返事して、おまけに笑顔までつけてしまい、後悔することも。素直に「大丈夫じゃないから手伝って」と言えたらと思う時もあります。
他にも、何となく違和感がありつつも、つい使っている場面として、例えばコンビニでレジ袋の購入が必要か聞かれた時、「大丈夫です」と答えることがあります。要らないからと「結構です」と答えるのは、ちょっと言葉の響きがきつすぎるかなと。
状況によっては、とっさに丁寧に返答できなかったりもしますよね。
相手に向けて使う「大丈夫」

① 相手を安心させる「大丈夫」
不安や焦りを感じている相手に、落ち着く一言として、安心を伝える言い方。
声のトーンや表情でも優しさが伝わります。
- 「心配しないで、大丈夫だよ。」
- 「大丈夫、ちゃんと間に合うよ。」
- 「大丈夫、大したことないよ。」
② 相手の失敗や落ち込みに寄り添う「大丈夫」
相手を励ますだけでなく、許しや共感を含んだ温かさのある「大丈夫」。
ときには「無理に元気出さなくてもいいよ」という意味も含まれます。
- 「大丈夫、誰にでもあることだよ。」
- 「大丈夫、そんなに自分を責めなくていいよ。」
- 「大丈夫、少しずつでいいから。」
③ 相手の状態を気遣う「大丈夫?」
質問形で、相手の様子を気遣う表現。
単なる「Are you OK?」よりも、感情の距離が近い言葉。
- 「大丈夫? 無理してない?」
- 「顔色悪いけど、大丈夫?」
- 「大丈夫そうに見えて、本当は我慢してない?」
④ さりげない励まし・背中を押す「大丈夫」
相手の力を信じる気持ちを込めた言葉。
相手が不安で動けないときに、そっと背中を押すような役割もあります。
- 「大丈夫、きっとできるよ。」
- 「大丈夫、自分を信じて。」
- 「大丈夫、あなたなら大丈夫。」
~言葉の間や温度などの伝え方によって変化する~
「大丈夫」という言葉は、言い方・間・表情によって意味が大きく変わります。
たとえば、
- 明るく言えば → 「元気づける」
- 静かに言えば → 「寄り添う」
- 短く繰り返せば → 「包み込むような安心」
看護の場面でも、比較的使いました。開けた質問として、相手に調子を尋ねる際に遣う時もあれば、やはり不安を多く抱えている方には安心する言葉が必要です。ただ、明らかに辛そうな状態の方に、大丈夫ですか?と聞くのは…違うように思うので、違う声掛けを。
自分に向けて使う「大丈夫」

時に、自分に言い聞かせるように「大丈夫」を使うこともあります。
① 小さな不安に向けての「大丈夫」
自分が少し緊張したり不安なとき、落ち着かせるために使う言葉。
心の中で“焦らなくていい”と自分に伝える。
- 「緊張してるけど、大丈夫。深呼吸すれば落ち着く。」
- 「うまくいかなかったとしても、大丈夫。またやり直せる。」
- 「誰も完璧じゃない、大丈夫。今の自分でいい。」
② 困難や失敗のあとに自分を励ます「大丈夫」
失敗や落ち込みを受け止めながら、自分を許す・前に進む力を与える使い方。
- 「あんなことがあったけど、大丈夫。ちゃんと前を向ける。」
- 「泣いてもいい、大丈夫。明日はまた違う日になる。」
- 「大丈夫、ちゃんと立ち直れる。」
③ 体調や心の揺れを認める「大丈夫」
体調不良や気分の揺れに対して、自分に優しく語りかける言葉。
無理をせず、受け入れる意味合いもあります。
- 「今日は少ししんどいけど、大丈夫。無理しないで休もう。」
- 「また不安…。でも大丈夫、ちゃんと乗り越えてきた。」
- 「大丈夫、焦らなくていい。ゆっくりでいい。」
④ 短く独り言で自分を支える「大丈夫」
繰り返すことで安心感を強める、セルフトーク。
- 「大丈夫、私はできる。」
- 「大丈夫、今日もちゃんと生きてる。」
- 「大丈夫、大丈夫。」(繰り返すことで心が落ち着く)
~言葉の間や温度によるニュアンス変化~
「大丈夫」という言葉は、自分に言い聞かせるときも声や間・リズムによってニュアンスが変わります。
- 明るく言えば → 自分を元気づける
- 静かに言えば → 自分を落ち着かせる、寄り添う
- 繰り返すと → 包み込むような安心感を強める
「大丈夫」のちから
「大丈夫だよ」と誰かに言われると、その言葉が必要なときほど、
素直に受け取れない時もあります。
それでも、声にしてもらえるだけで、少し心の置き場所ができるような気もします。
「大丈夫」という言葉には、強さと優しさの両方が含まれていて、
どちらか一方だけでは続かない。
人の支え方みたいなものが、この一言にあるのかもしれません。

父の書「大丈夫だよ」 Calligraphy by 筑芳(Chikuho)


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