思考の癖をほどく—訪問看護の現場から見えた“心の整理”の方法

看護

潜在意識に惹かれたきっかけ

最近、「潜在意識」という言葉が気になるようになりました。訪問看護の現場で、人の“こころの動き”に触れることが多かったからかもしれません。

目に見える症状の背景には、その人が長い時間をかけてつくり上げてきた思考の癖や、無意識の反応が隠れていることがあります。
誰かの「考え方のパターン」に気づくたび、私自身の中にも同じような癖があることを感じてきました。

東洋医学が「心身一如(しんしんいちにょ)」と説くように、
心と体は切り離せない存在です。
今回は、“思考の癖”と“潜在意識”というテーマを、看護の視点から少し掘り下げてみたいと思います。

思考の癖とは何か

私たちの思考には、無意識のうちに繰り返してしまう“クセ”があります。
心理療法のひとつである認知行動療法では、「自動思考(automatic thoughts)」という言葉がよく使われます。(参考:認知行動療法とは)

出来事そのものが問題なのではなく、
その出来事をどう解釈するかによって感情や行動が変わる、という考え方です。
たとえば、「失敗した=自分はダメだ」と結びつけてしまうのも、思考の癖のひとつです。

さらに深く見ていくと、思考の癖は「スキーマ(schema)」と呼ばれる、私たちの“心の中の設計図”のようなものとも関係しています。
スキーマとは、過去の経験や価値観が積み重なって形成される“無意識の枠組み”です。(参考:Schema スキーマとは

つまり、思考の癖はただの性格ではなく、
長い時間をかけて積み上げられた「心の反応のパターン」なんです。

潜在意識って何?

潜在意識とは、私たちが普段「意識していない心の領域」のことをいいます。
たとえば、初めて会う人にどこか懐かしさを感じたり、理由もなく不安になったりする。


そんなとき、心の奥では、過去の経験や感情の記憶が静かに働いています。


自分でも気がつかないうちに、「この人はきっとこういう人」「こんな感じなんだろう」と想像していることもあります。そんなときも、潜在意識の影響が働いているのかもしれません。


過去に関わってきた、似た人と重ねてみたり、勝手にグループ分けして、パターン化しているような。

精神分析学の創始者であるフロイト(Sigmund Freud)が提唱した「無意識(the unconscious)」の概念に基づいています。


フロイトは、人間の心を「意識・前意識・無意識」の三層構造で説明し、行動や感情の多くは無意識的な心のプロセスによって動かされていると言っています。
(参考:フロイトの三層構造について)

その後、心理学や脳科学の分野では、「人間の意思決定や感情反応の多くが意識の外側で起こっている」ことが明らかになっています。


私たちは「自分の行動は自分の意志で選んでいる」と思いがちですが、
実際にはその多くが、無意識のうちに影響を受けています。

社会心理学者の ジョン・バーグ(John A. Bargh) は、人の思考や行動の多くが「自動的(automatic)」に起こっていることを数多くの実験で示しています。


ジョン・バーグによると、私たちは意識せずとも環境や言葉、他者の態度などから影響を受け、思考や行動を方向づけられているのだそうです。

この考え方は、心理学でよく知られる 二重過程理論(dual-process theory) のうち、
「無意識的な自動処理(System 1)」の働きを裏づけるものです。
一方で「意識的で論理的な思考(System 2)」は、私たちが熟考するときに働くとされています。(参考:二重過程理論dual-process theory



潜在意識という言葉を聞くと、少しスピリチュアルというイメージを抱き、
最近では「スピってる」と少し揶揄されることもありますが、心理学や脳科学の世界でも研究されている分野なのです。


緩和ケアの医療でも、全人的な痛みのアセスメントをする際に、精神的・心理的のような分野としてスピリチュアル=霊的痛みという分野も必ず考えます。


心の奥にある、目には見えないし、自覚もしにくい記憶。
それが「潜在意識」なんですね。

訪問看護の現場で感じた「思考の癖」

訪問看護の中では、特に精神科訪問看護の利用者さんから「どうせ私なんか」「どうせ上手くいかない」「迷惑をかける」という言葉を耳にすることがあります。


そんな言葉の奥には、過去の経験や人との関わりの中で身についた“心の防衛反応”が隠れているように感じます。


実際話を掘り下げていくと、その発言の背景には、生育状況など幼少期の記憶や環境が壮絶な方がほとんどでした。まさに「事実は小説より奇なり」と感じる瞬間です。

ある方は、長く「自分は役に立たない」と思い込んでいました。
けれどある日、「まあ、そんな日もあるか」と、少し笑って話すようになりました。


その変化の裏には、日々の何気ない会話や、「できたこと」に目を向ける小さな積み重ねがありました。


そこで、関わりの中で意識していたのが、認知行動療法です。


でも、その認知行動療法という言葉を伝えると、「昔、病院で受けたことあるんですけど、私には合わないんですよね」と言われることが多かったんです。


そんな時は、あえて目に見えない方法の”自由会話”の中で、利用者さんに根気よく伝えるということが有効だったと思います。


できた事実の振り返りと、その対応で良かったこと、その時の反応の変化などを訪問の度に伝えていくのです。

思考の癖は、誰かの言葉や視点によって、少しずつほどけていくことがあります。
その過程をそばで見守るたびに、人の心は変われるという希望を感じます。

そして同時に、「自分自身の思考の癖」に気づかされることも少なくありません。
相手の心を整えることと、自分の心を整えることは、表裏一体だとも思っています。

思考の癖をほどくためにできること

書いてみる・言葉にしてみる

まずは「気づくこと」から。
日々の中で感じたことを、紙に書いたり、スマホのメモに残したりするだけでも、
自分の思考の傾向が見えてきます。


たとえば、他者にかけてもらって嬉しかった言葉や、逆に悲しかった言葉を書き出してみる。


そしてその言葉で「どうしてそう感じたのか?」「その思いはどこから来ているのか?」「何て言って欲しかったのか?」と問いかけてみる。


これを繰り返すだけで、少しずつ“自動思考”の存在に気づけるようになります。

話してみる・共有してみる

誰かと話すことは、頭の中の整理にもつながります。


訪問看護の場でも、利用者さんが「言葉にして話す」ことで変化が生まれる場面を多く見てきました。


ほとんど外出できず閉居状態で、普段関わるのは私たち訪問看護師だけ、という方も多いので、他者と関わって話すことはすごく大切なことだと感じています。


自分自身も、信頼できる人と話してみることで、心の奥に溜まっていた思い込みがほどける経験を何度も何度もしてきています。

言葉を選びなおす

「どうせ私なんて」ではなく、「今はそう感じている」と言い換えてみる。


「できなかった」ではなく、「今日はここまでできた」に変えてみる。
言葉の選び方を変えるだけで、思考の方向が少しずつ変わっていきます

言葉は、力があるので、少し変えてみるだけでも感じ方って変わりますよね。


日々どんな言葉を自分にかけているか——
それに気づくだけでも、心の柔軟さが戻ってきます。


他者に遣う言葉も、自分自身も聞いているので、脳はそれをすべて自分へ向けた言葉のように感じて知らず知らず自分を傷つけていることも。

自分の潜在意識と向き合う

他者の心に寄り添う仕事をしてきた中で、
私自身が一番むずかしいと感じるのは「自分の心と向き合うこと」です。


看護を通して出会ってきた“思考の癖”は、やはり私自身の中にもあるものでした。

潜在意識を理解することは、
他者を知ることと同じくらい、自分を癒す行為なのかもしれません。

1日1つでもいいので、自分に語りかける言葉を意識してみる。そして、思考の癖を“ほどく”習慣を、静かに育んでいく。


その積み重ねが、心をやわらかく保ついちばんの方法だと感じています。

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