誰かを癒すと自分も癒される?――脳科学・心理学から考える

看護
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はじめに

仕事だけに関わらず、誰かの役に立てた時や、相手の笑顔を見れた時は、とても嬉しい気分になりますよね。

ケアやサポートする側でも、反対に癒された!と感じる瞬間があります。この感覚があるから、人との関わりで悩むばかりではなく、喜びも感じながら、仕事も私生活も過ごしていけるのだと思います。

なぜそのような感覚になるか、科学的な裏付けが知りたくなりました。
今回は、この癒しについて脳科学や心理学などの面からまとめていこうと思います。

癒しが起こる脳の仕組みと、反対に関係が重くなる理由を分かりやすく解説します。

脳科学 — ミラーニューロンとオキシトシンの働き

ミラーニューロンが「相手の安心」を自分にも映し出す

相手がほっとした表情を見たり、呼吸が落ち着いていくのを感じたりすると、
私たちの脳の「ミラーニューロン」がそれを“自分のことのように”感じ取ります。

ミラーニューロンとは
前頭前野(運動を司る部分)頭頂葉(感覚や空間認知を司る部分)が連携して、相手の表情・動き・声のトーンを観察し、「自分だったらこうしている」という脳内シミュレーションを自動で行います。

ミラーニューロンによって、例えば…

  • 誰かがあくびをすると、自分もあくびが出る
  • 赤ちゃんに微笑みかけると、赤ちゃんも笑顔になる
  • 誰かが痛そうにしていると、自分も胸がぎゅっとする
  • 相手の笑顔を見ると、自分の脳も「笑顔の時の状態」を再現する
  • 相手が安心すると、自分の緊張も自然と下がる

相手への共感が生まれることによって、無意識に相手の呼吸や声の大きさや表情などが模倣して同調する。癒しが循環するのです。

相手の表情がふっと柔らかくなった瞬間、自分自身も胸の奥がゆるむような感覚がありますよね。あれは脳の仕組みで、お互いにミラーニューロンが働いて “調和” が生まれて、一緒にいると落ち着いたり、安心できる空間に変化します。

オキシトシン(癒しホルモン)が双方に分泌される

タッチング(手を握る、背中をさするなど)や目を合わせて丁寧に話すことは、
オキシトシン」というホルモンを分泌させます。

その効果は…

  • 安心感
  • 親密感
  • ストレス緩和
  • 不安の低下

これは相手だけでなく、触れた側にも同じように分泌されます。そのため、“ケアする側も癒される”という現象が起こるのです。

緩和ケアでも訪問看護でも、体や心をほぐすためのマッサージを用いる場面がよくあります。そうすることで、お互いに癒しの効果が感じられるのです。なんだか、得した気分にもなりますよね。

気をつけたいポイントは、実際に相手に触れるとき「自分自身の呼吸が早くなって、変に力んでいないか」と、自分の状態を知っておくことだとも思っています。

タッチングなどを通じてお互いに共感・同調が起こるため、相手に触れる時は、相手の呼吸のリズムに合わせて行うと、より双方の気分が落ち着いてきますし、不思議と疲れにくくなります。

心理学 — 「利他的行動の恩恵(ヘルパーズハイ)」

心理学では、人のためになることをすると、自分の幸福度が上がるという現象が明確に示されています。

ヘルパーズハイ」と呼ばれることもあり、

  • 誰かの役に立った
  • 必要とされた
  • 感謝された

この体験が、脳に“報酬”として働き、ドーパミンエンドルフィンが出ます。“役に立てている喜び”は、このあたりが関係しています。

看護師以外にも、ヘルパーやセラピスト、整体師、保育士など。対人かつ人に触れることがある職業の方は、相手の変化をダイレクトに感じる仕事なので、脳の報酬回路が強く働きやすくなります。

ドーパミン
うれしい・達成した・感謝されたときに分泌される、やる気や前向きさを生むホルモン。

エンドルフィン
安心・リラックス・笑いで分泌される、“天然の鎮痛剤”のようなホルモン。痛みや不安を和らげ、心を穏やかにする。

共感(エンパシー)の双方向性

ケアの場では、相手と自分が「一緒にそこにいる」ということを意識的に行います。関係づくりが難しい時や、本音がまだ見えない時などは、あえて言葉を使わず、そばに“いる”、ただ”静かにたたずむ”という関わり方をすることがあります。

  • こちらが落ち着いて向き合う
  • 相手も落ち着く
  • その表情を見て自分も整う

この循環は、心理学では「共調(co-regulation/共同調整」と言い、お互いの神経系が同時に安定していく現象です。

これは緩和ケアや終末期の現場で特に強く起こりやすいです。人は、誰かと“安全な関係”を結ぶだけで、自律神経が整い、つながりや共感を感じることで安心します。

癒される関係 vs 重く感じる関係 — 脳と心の働きからみる対比

ここまでは、癒されるメカニズムについて書いてきましたが、人と関わるときは必ずしも癒されているわけではありませんよね。

「なんとなく重い時」や「関わるとすごく疲れる時」があります。人間関係は、楽しさと大変さがどちらも感じられます。その重たく感じる関係の背景にも、脳の働きと自律神経のリズムが深く関わっています。

ミラーニューロン —— 気持ちが重く感じるとき

ミラーニューロンによって気持ちが重く感じるときは、相手の焦り、不安、怒りが強いときなどが、緊張をそのまま映しとり、心がざわつきます。

自律神経のリズム —— 呼吸やテンポが合わない

こんなときは、自律神経のリズムがズレて「空気が重い」と感じやすくなります

  • 相手は急いでいるのに、自分はゆっくり
  • 相手の焦りや不安が強い
  • 言葉が噛み合わない感じが続く

会話や呼吸のテンポや、間(ま)が合わない。リズムが合わない。嚙み合わない。

脳波の違い —— 感じる“周波数”のズレ

脳は状態によって異なる脳波を出しています。

脳波とは、脳の神経細胞が活動するときに生じる微弱な電気信号のリズムのことです。
私たちの気分・集中力・緊張度に合わせて、このリズム(周波数)が変化します。

医学的には、脳波は次のように分類されます。

  • デルタ波(0.5〜4Hz):深い睡眠
  • シータ波(4〜8Hz):まどろみ・創造性・リラックス
  • アルファ波(8〜12Hz):落ち着き・安心感・心身の安定
  • ベータ波(12〜30Hz):思考・仕事モード・軽い緊張
  • ガンマ波(30Hz以上):高度な集中・学習・ひらめき


どの脳波も、状況に応じて切り替わるのが健康な状態です。

たとえば…

  • 癒されている時 → アルファ波が優位(α波)
     リラックス・安心・穏やかさ
  • 不安や焦りが強い時 → ベータ波が優位(β波)
     緊張・不安・思考過多・ストレス

癒される関係の場合は、自分も相手も“アルファ波に近い状態”。
呼吸が落ち着き、ゆるやかなリズムが共有されます。

しかし、重く感じる関係では、相手がベータ波でピリピリしているとき、
自分が穏やかな状態でも“周波数が合わない感覚”が生まれます。

例えるなら、違うラジオの周波数同士が混線しているような状態
これが、「疲れる」「なんとなく噛み合わない」の正体なのですね。

人は互いに“調整し合える存在”

癒しも重さも、どちらも人間として自然な反応です。
そして、関係の空気は一瞬で決まるわけではなく、お互いの呼吸・声のトーン・まなざしなどの表情よって常に調整されています。

  • 重く感じる相手といるときは交感神経が優位になりやすい
  • 呼吸が浅くなる → ミラーニューロンで緊張が伝播 → 疲れやすくなる
  • 逆に、落ち着く相手といるときは迷走神経の働きが強くなる

こちらがゆっくりと呼吸するだけで、相手の緊張が緩むこともあります。看護の現場では、それを実感することも多いと思います。

穏やかで安全なリズムは伝わり、重さもまた伝わるようになっています。
そんな人と人のつながりの仕組みを知っておくことで、自分の心のゆとりを保ちやすくしてくれるかもしれません。

おわりに――「癒しの連鎖」は自然な反応

癒しとは、お互いの脳と心が“調和”した状態。
重さとは、その調和が一時的に崩れた状態。

人と人が出会うたびに、表情・呼吸・声・脳のリズムが影響し合っています。
看護やケアの現場では、その小さな調和が安心を生み、時には反対に、“なんとなく合わない”感覚となって表れることもあります。

どちらも、人間らしい自然な反応です。相手の言葉や表情が柔らかいと癒され、
自分の役割が感じられると役に立てている喜びが生まれます。

タッチングの効果は思ったよりも強力だと思います。その分、相手の反応を確かめながら、少しずつ慎重に行うことも大切です。

私の忘れられない体験として、言語化がまだ難しい小児の訪問看護の際にタッチングを実践し、相手が心を開いてくれた瞬間を感じることができました。もちろんその子に限らず、泣いたり苦しんでいる人の背中にそっと手を添えたり、そっと隣に”いる”ということで、お互いに安心することができます。そして、大切にしたい感覚でもあります。

こちらが癒そうと関わると、相手の変化がこちらに戻ってきて、自然と自分も整う。人の心情や呼吸の変化を丁寧に感じ取れる方は、この効果が特に大きくなります。そして、自分自身の感覚を見つめることで、相手の状況もわかることができるということでもあります。

少し疲れた時や、迷った時などは、
脳科学や心理学での裏付けを知ることで、一息つくことができると思います。
そして、お互いに癒し癒される関係がもっともっと日常に溢れますように。