「くよくよしない」を深掘りする ― 言葉の成り立ち・心理・脳科学から見えてくること

ことば
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「くよくよ」の意味と語源 ― 擬態語のやわらかさ

「くよくよ」は、日本語の 擬態語(状態を表す言葉) です。

【くよくよの意味】
いくら考えたところで解決しようのないことをいつまでも気にするさま。
また、今さらどうしようもないことをくり返し言うさまを表わす語。
小さなことを気に病み、気持ちが晴れないさま。
くゆくゆ。くやくや。
[初出の実例]「なげくまじ今更に、何くよくよとくへ日の、悔むもよしな」(出典:浄瑠璃・大経師昔暦(1715)暦歌)
「いつまで、くよくよしてたって仕方がない」(出典:暗夜行路(1921‐37)〈志賀直哉〉四)


必要以上に悩みつづける 気持ちがまとまらず、心がとぐろを巻くように停滞することを言います。

なぜこの言葉と取り上げたかというと、
思えばこの5・6年、何だかずっとくよくよして過ごしてきてしまったように思ったのがきっかけです。人間関係や仕事に体調と、同じような失敗というか、悪循環に陥っていたように思います。

くよくよする。言葉の響きが優しくて、きっと日本語の面白さも潜んでいるのではないかなと思い、深堀りしてみることにしました。

語源には諸説あるようです。

①「気弱(きよわ)」転訛説

  • 気弱(きよわ)
  • → きよきよ
  • → くよくよ

気が弱くなり、心が揺れる状態を表していた言葉が、口語化・音変化を経て「くよくよ」になったと考えられています。

この説が支持される理由は、

  • 意味がほぼ一致しているため
  • 日本語では k → ky → ku の音変化が起こりやすいため


② 「くゆ(悔ゆ)」関連説

  • くゆ(悔ゆ)
    → 後悔する、心を痛める

「悔ゆ」という古語は、現代語の「後悔する」「悔やむ」に近い意味を持ちます。

これが反復され、”くゆ → くゆくゆ → くよくよ”と変化

  • 「後悔」
  • 「取り返しのつかない気持ち」
  • 「過去に心が向く」


繰り返し表現=「よよ」・「くよくよ」は、“同じ場所で足踏みしている” ような心の状態をやさしく示してくれる言葉で、深刻な精神状態を示す語には分類されていません。

「憂鬱」や「絶望」「悲嘆」というような言葉とは違って、少し距離を取って眺められる表現として扱われています。感情を“断定せず、やわらかく包む”言葉の文化も感じられます。

日本語らしい温度感や優しさがあって、責める響きになりにくい。英語で言うと “rumination(反芻思考)” ですが、「くよくよ」のほうがやわらかい表現のように思います。


心理学的にみた「くよくよ」

心理学的に見ると、くよくよとは反芻(はんすう)思考とほぼ重なりますが、
言葉としては完全にイコールではないようです。

◆反芻思考とは?

反芻思考とは、過去の出来事や自分の感情について、解決に結びつかないまま何度も繰り返し考えてしまう思考パターンのことです。

心理学者 スーザン・ノーレン=ホークセマ(Susan Nolen-Hoeksema) によって提唱されており、以下のような特徴があるとされています。

  • 問題解決よりも「なぜこうなったのか」に思考が向く
  • ネガティブな感情が長引きやすい
  • 抑うつや不安のリスクを高める

反芻思考が強い人ほど抑うつ状態が長期化しやすいことが複数の研究で示されています。


本来、人間は危険を回避するために「振り返る」能力が必要ですが、反芻が続くと「気づき」ではなく「自責」のループに入りやすくなってしまうとも言えます。

では、なぜ「くよくよ」と「反芻思考」が完全にイコールではないかというと、

理由①:立場が違う

くよくよは、日常語・感覚的な言葉。
反芻思考は、学術用語・操作的定義を持つ概念です。

反芻思考は、強さや頻度などを数値化できたり、治療や介入の対象になったりします。
一方「くよくよ」は、その人の語り・文脈・感情の温度を含んだ言葉です。


理由②:「くよくよ」にはがある

「くよくよ」には、反芻思考ほど病理性が高くないケースも含まれます。

たとえば、

  • 寝る前に少し考え込む
  • 失言を思い出してモヤっとする
  • 一晩悩むけれど、翌日には切り替えられる

これらは心理学的には“正常な内省”や“一時的な反芻”なので、必ずしも「反芻思考の問題型」とは言えないからです。


理由③:「意味づけ」が違う

反芻思考は研究上、抑うつ・不安を維持・悪化させやすい要因として扱われますが、くよくよとは、優しさや繊細さ、考える力などの中立で肯定的なニュアンスを含んで使われることが多いです。日本語の特徴でもあると思います。


脳科学的にみた「くよくよ」

「くよくよ」は意志の弱さではなく、
脳の中でネットワーク同士のバランスが崩れた状態と考えられています。

ポイントとなるのは、以下の3つの関係と言われています。

  1. デフォルトモードネットワーク(DMN)
  2. 扁桃体
  3. 前頭前野

デフォルトモードネットワーク(DMN)とは

◆ DMNの正体

DMN(Default Mode Network)は、外部課題に注意を向けていない安静時に、自発的に活動が高まる脳内ネットワークのことです。DMNは単一部位ではなく、複数領域の機能的結合(functional connectivity)によって成立します。
(2001年、Marcus Raichle らによって、PET・fMRI研究により提唱されました。)

主に以下の領域が中心的役割を担うとされています。

  • 内側前頭前野(mPFC)
     自己関連情報の処理、自己評価、感情的意味づけに関与する中核領域。
  • 後部帯状皮質(Posterior Cingulate Cortex:PCC)周辺
     自己意識や注意の内的配分、記憶想起の統合に関わり、DMNのハブとして機能するとされる。
  • 楔前部(Precuneus)
     自己参照的思考、視点変換、エピソード記憶の想起に関与し、安静時に高い活動を示す領域。
  • 側頭葉内側部(海馬周辺領域)
     自伝的記憶や過去経験の再構成を担い、DMNに時間的文脈を与える。
  • 側頭頭頂接合部(Temporo-Parietal Junction:TPJ)
     研究によってはDMNの一部として、他者視点の推測や自己と他者の区別に関与すると示されている。

※TPJについては、社会認知ネットワークとの重なりを持つ領域であり、DMNとの機能的結合が状況により変化することが報告されています。
※デフォルトモードネットワークは固定された構造ではなく、研究手法や課題条件によって関与する 領域の広がりが報告されています。

これらが同期して活動することで、
「内省」「自己物語」「過去と未来の連続性」が生まれます。

そして、この回路が活発になるのは、安静時、内省時、自己関連情報や自伝的記憶を想起している際に活動が高まります。

具体的には、こんな時に活発に働きます。

  • 何もしていない、あるいはぼんやりしているとき
  • 自分の過去や未来について考えているとき
  • 空想や思考の連想にふけっているとき
  • 自己評価や自伝的記憶など、自己に関する情報を整理しているとき
  • 他者の気持ちや意図を想像するなど、心の状態を推測しているとき

フォルトモードネットワーク(DMN)は、「何もしていない脳の状態」ではなく、
人が自分自身や他者を理解し、意味づけを行うための基盤となる脳内ネットワークです。


◆ DMNの本来の役割

DMNは本来、以下のような大切な役割を担っています。

  • 自己理解と経験の統合(意味づけ)

過去の出来事や感情を呼び起こして、1つの物語として統合する機能に関与します。自伝的記憶・自己参照的思考・意味づけを行います。こうした内省ができることで、経験は単なる出来事から意味をもつ体験へと変換されます。

看護の場面で活かされるDMNの役割
病気や喪失、人生の転機において、患者さん・利用者さんが話してくださることで回復や受容を促す背景があり、そこにはDMNによる意味づけの働きがあります。

  • 共感・他者理解(メンタライジング)

他者の心の状態を想像して、推測する機能(メンタライジング)とも関係しています。相手の気持ちや言葉の裏側を考える思考です。これは、側頭頭頂接合部(TPJ)や内側前頭前野を含むDMNの活動と関連しています。

看護の場面で活かされるDMNの役割
相手の言葉にならない感情を感じ取る力、沈黙の意味を受け取る力です。

  • 感情の調整と回復過程への寄与

強い感情をそのまま反応として外に出すのではなく、内側で一度整理し、落ち着かせる働きにも関与しています。適切な内省があることで、感情を言葉にできるたり、自分の反応を振り返り、次の行動を選び直せたりします。

看護の場面で活かされるDMNの役割
「少し考えてから話す」「落ち着いて受け止める」というような姿勢は、
DMNと前頭前野の協調によるものです。

  • 将来の見通しと希望の形成

過去だけでなく、未来を思い描く脳機能とも関係しています。この先どう生きていきたいか、どんな選択肢があるかを想像する力です。
この力は、回復期・終末期・慢性期いずれのケアにおいても重要です。

看護の場面で活かされるDMNの役割
希望や選択を支えることで、未来をシミュレーションする力を尊重してくれます。

  • 創造性・直感・判断への影響

ひらめきや直感とも関係しています。
「何か違和感があるな」「今日はこんな関わり方がいいかも」といった感覚は、DMNと経験知が統合された結果だと思います。

看護の場面で活かされるDMNの役割
エビデンスだけでなく、臨床感覚を大切にする判断にも関与しています。


DMNは、人の痛みを想像できる力や判断できる力として、とても深く関係している役割がこんなにも沢山あることが分かりました。しかし、これらは健やかに働いてくれることで、得られるものです。そこで次の項では、DMNがもたらすマイナスな部分は何かをまとめていきます。


くよくよ状態でDMNが「止まらなくなる」

DMNが止まらなくなる背景には、「考えすぎている」だけでは説明できない要因があります。それは、脳がまだ“安全ではない”と判断し続けている状態です。
このとき中心的な役割を担うのが、扁桃体です。
扁桃体は、DMNのスイッチを入れてしまう“きっかけ役”でもあります。

そして問題は、DMNが過剰に・長時間働くことです。そうすると脳は、同じ出来事を何度も再生し、別の視点に切り替えられなくなります。「今」に注意を戻せない状態になります。

これが、
「もう考えても仕方ないと分かっているのに、考えてしまう」という、
くよくよの正体です。

扁桃体の警報が鳴り止まない限り、脳は「まだ考え続ける必要がある」と判断します。それは扁桃体が警報を鳴らし続けている状態です。扁桃体は、脳の中の感情・特に恐怖や不安を検知する装置で、本来は危険を察知したり、身を守る反応を起したりするものです。

くよくよしている時の扁桃体

くよくよしているとき、扁桃体は次のように働きます。

  • 過去の出来事を「脅威」として再評価
  • 失敗や他人の反応を危険信号として扱う
  • 小さな刺激にも過剰反応

結果として、

「あの一言、まずかったかも」
「嫌われたかもしれない」

といった感情付きの記憶が強化されてしまいます。


本来ブレーキ役の「前頭前野」が疲れている

前頭前野は、「冷静な判断」「感情の調整」「思考の切り替え」を担う、理性の司令塔のような役割です。しかしこの前頭前野は、疲労・睡眠不足・ストレスがあると、働きが弱くなってしまうのです。

働きが弱まることで、扁桃体の不安を抑えられず、DMNの思考ループを止められなくなります。そして、感情が主導権を握り、考えが勝手に流れ続ける。
これで、くよくよループが完成してしまうのです。


くよくよすることで起こる悪循環

  1. 何か気になる出来事が起こる
  2. 扁桃体が「危険かも」と反応
  3. DMNが活性化し、過去を反復再生
  4. 不安感情が強まる
  5. 前頭前野が疲れて切り替えられない
  6. さらに扁桃体が過敏になる

思考と感情が相互に煽り合う状態

これが、
「考えれば考えるほど抜け出せない」理由です。


くよくよすると、楽しさが減る?

「くよくよ」は未来を奪ってしまう思考。

思考が過去に向いてしまうことで、いま目の前の楽しさに注意を向けづらくなってしまうからです。行動するエネルギーが削られ、自分への信頼が薄くなってしまいます。何をするにも言い訳をしてしまうような、自分と他者を比べて落ち込んでしまうような。

気持ちが「くよくよ」でいっぱいになってしまうと、新しいこと、ちいさな幸せ、笑顔等に向ける余白がなくなってしまうのです。


「くよくよ」から抜けるためには

不自然に強気になったり、気づかないフリをするのではなく、
そのままをやわらかく扱うのがポイントです。

ただの”脳の癖”と理解して、人格の問題ではないと捉える
 そうすれば、自分を責めなくなる。

深呼吸で前頭前野を働かせて、思考のループを止める

思考を外に出す。ノートに書いたり、 誰かに話してみる。
 言葉にして眺めると、渦巻いていた思考が見えて、ほどけてくれます。

「今」に意識を戻す行動をとる。立ち上がったり、水を飲んだり。
 音楽や香りを楽しむ。ほんの数秒でも、脳の回路が切り替わります。


おわりに

「くよくよ」を深掘りすると、脳が過去へ戻ってしまう反芻思考と深い関係があることが分かりました。

大きな円:くよくよ(日本語・感覚)
その中にある円:反芻思考(心理学的定義)

反芻思考は、くよくよの「中心部分」で、すべてのくよくよが、問題的な反芻思考とは限らないことも分かりました。「くよくよ」するというのは、日本語の響き通り、やはりやわらかい脳の働きでした。

そして、DMNは自己理解や共感、意味づけ、将来の見通しといった、人が人として生きるための根幹に関わる脳機能を担っています。

看護やケアの場面に限らず、「語る」「感じ取る」「待つ」といった、生きていく上で大切なものは、DMNが健やかに働くことで支えられています。

一概に、くよくよすることは悪いとは言えないかもしれません。
なぜなら、くよくよしやすい脳は、深く感じ取り、つながる力を持った脳でもあるからです。そのことを知っておけば、意識的に脳の切り替えを行うことで、くよくよの一番奥にある反芻思考に至らずに、「今ここ」に戻ることができる。

時々、くよくよしするのもいいかもしれない。「今は脳がくよくよしただけ」「脳が疲れを教えてくれた」思えるようになれば、自分に優しくできている証拠です。