「してはいけない」が心を縛るとき――PTSD・フラッシュバックと、心の傷の回復について考える

看護
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はじめに

テレビで「〇〇してはいけない、という状況が恐怖心やパニックを招く」という話を耳にして、強くうなずいてしまいました。
それは、知識として知っていたはずのことなのに、体感として腑に落ちた瞬間でした。

ストレス過多やホルモンバランスが崩れている時、
トイレにすぐに行けない状況や閉鎖された空間など。

じっとしていなければいけない場面になると、動悸や息苦しさ、血の気が引く感覚、急な便意や尿意。これらは、自律神経――とくに迷走神経系の反応として説明できることもあります。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)やフラッシュバックは、
「弱さ」や「気の持ちよう」「甘え」などの問題ではありません。
脳と身体が、過去の強いストレス状況を
今も続いている危機として処理してしまう状態なのです。

私は看護師として、PTSDを抱える利用者さんと関わってきました。
そして私自身がホルモン治療を受けていた頃や、術後の更年期症状など、仕事のストレスに更に加わった悪条件で、先述したようなさまざまな症状に苦しんできました。
まったく他人事ではないことなのです。


「してはいけない」が増えるほど、人は追い詰められる

PTSDの背景には、共通する構造があります。

  • 逃げてはいけない
  • 休んではいけない
  • 弱音を吐いてはいけない
  • 空気を壊してはいけない

こうした「してはいけない」が積み重なると、
人の心と身体は、常に緊張状態に置かれてしまいます。

安全が確保されないまま、
「正しく振る舞うこと」だけを求められる状況は、
恐怖やパニックを引き起こしやすくします。

これは、意志の問題ではありません。
脳の防衛反応――とくに扁桃体を中心とした危険察知システムが、
前頭前野による「大丈夫だ」という判断よりも優位になることで起こる、
極めて自然な反応なのです。


フラッシュバックとは「記憶」ではなく「再体験」

フラッシュバックは、
過去の出来事を「思い出す」こととは違います。
診断基準(DSM-5)においても、
「出来事の侵入的な再体験」として位置づけられています。

  • 当時の感情
  • 身体の緊張
  • 息苦しさ
  • 思考の停止

が、今この瞬間に起きているかのように再生されます。

なので本人は、
「もう終わったことだと分かっているのに、体が反応してしまう」
という苦しさを抱えていることになります。

これは脳が、
「まだ安全ではない」
誤認している状態です。


「話してはいけない」空気が、回復を遅らせる

PTSDや心の傷が長引く背景には、
「これは重たい話だから」
「周囲に迷惑をかけるから」
と、語ることを封じられてきた経験があることも多くあります。

そして、
回復に必要なのは、
無理に前向きになることではないのです。

  • 今も揺れること
  • 完全には整理できていないこと
  • 言葉にすると苦しくなること

それらを、安全な形で認めていくことが大切です。

トラウマからの回復は、
一気に起こるものではなく、
「安全の確保 → 体験の整理 → 再統合」という段階をたどるとされています。
(過去の出来事が、今の生活を脅かさなくなること)


おわりに

PTSDやフラッシュバックは、
「乗り越えられていない証拠」ではありません。

それは、その人が本気で生き延びてきた証でもあります。

「してはいけない」に縛られ続けた心が、
ようやく「もう大丈夫かもしれない」と緩み始めたとき、
過去の記憶は顔を出すのです。

理由もなく不安が強くなったり、
昔の出来事が繰り返し浮かぶなら、
それは弱さではないのです。

回復の途中にいる、というサインです。

もし、
さまざまな症状が出てしまったら、
「大丈夫、これまでも何度も乗り越えられてきた」と、
ほんの少し立ち止まってみてください。

そして、意識を「今」に戻します。
好きな香りを嗅ぐ、手をぎゅっと握る、
目線を少しだけ高くする。
そんな小さな動きも、いわゆる「動く瞑想」のひとつです。

落ち着いてきたら、深呼吸を。
すべてできなくても、ひとつだけでも大丈夫です。

緊張をほどいて、脳の誤認を少しずつ回復させてくれます。


参考

心的外傷およびストレス因関連症群の概要

日本トラウマティック・ストレス学会

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