インシデントを起こした看護師――ミスの経験が与えてくれるもの

看護師エッセイ
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はじめに

看護師として働いてきて、
顛末書を書くほどの大きなミスをした経験があります。

詳しいことは書けませんが、
それ以外にも転倒や落薬、点滴自己抜去など、
大小さまざまなインシデントを経験してきました。

事故にはならなかったものの、
「ヒヤリ」「ハッ」とする場面――
医療現場でいうヒヤリハットも、これまで何度もありました。

ヒヤリハットやインシデントというと、
医療者のミスとして語られることが多いかもしれません。
世間では「看護師のミス」として一括りにされてしまうこともあります。

もちろん、注意不足や判断ミスが原因になることもあります。
けれど実際の現場では、
人手不足や忙しさ、患者さんの体調の急な変化など、
どうしても防ぎきれない出来事が重なることもあります。

患者さんが、
「少し歩きたい」と思って立ち上がったその一歩が
転倒につながってしまうこともあります。

誰か一人の責任では説明できない出来事も、確かに存在しています。

きっと、看護師であれば誰もが、
「何も起こしたことがない」とは言えないのではないでしょうか。

そんな数えきれないヒヤリハットやインシデントの中でも、
今でも忘れられない出来事があります。

それは、まだ看護師として経験の浅かった頃のことでした――

あの出来事だけは、今でも心の奥に深く残っています。
ふとした瞬間、あの日の場面を思い出してしまうことが20年以上経った今でもあります。
血の気が引き、ざわついて、
体の力が抜けてしまうことがあります。


どこかで、誰かを傷つけてしまったという感覚

事故が起きたあと、
私はずっと、どこか「罪を犯した人」のような気持ちがありました。

笑っているだけで、
「よくそんな顔でいられますね」と責められたこともあります。

今振り返れば、
私は過度に緊張し、時間に追われ、
判断が甘くなっていたのだと思います。

勉強不足もありました。

けれど、起きてしまった出来事は、
どんな理由があっても、消えることはありません。

「私が誰かを傷つけてしまった」

その感覚は、時間が経っても、完全に消えることはありませんでした。


あのとき、守ってくれた人たち

事故のあと、
病院全体を巻き込むほどの大きな問題になりました。

院内ルールが見直され、
仕組みそのものが変わるほどでした。

そんな中で、主治医をはじめ、
当時の看護師長、病棟の同僚たちは、
私を責めることなく、必死に守ってくれました。

その姿に、私は何度も救われました。

もしあのとき、
誰ひとり味方がいなかったら、
私は看護師を辞めていたと思います。

もしかしたら、
人生そのものを続けられなかったかもしれません。

それほど、追い詰められていました。


その後の私は、確実に変わった

この経験があったからこそ、
私はその後、看護に対して向き合い方が変わりました。

・どんな状況でも確認を怠らないこと
・小さな違和感を流さないこと
・「たぶん大丈夫」を決して使わないこと

そして、
患者さんの立場で考えること。

あの出来事は、
私にとって、看護師人生で最も苦しく、
同時に、最も多くを学んだ経験でもありました。


それでも消えない、心の奥の痛み

時間とともに、日常は流れていきます。
周囲も、少しずつその出来事を忘れていきます。

けれど、自分の中では、
完全に風化することはありません。

「今も、あの方を傷つけ続けているのではないか」

そんな気持ちが、
ふとした瞬間に顔を出します。

この気持ちを抱えたまま、
私は看護師として働き続けてきました。


同じ苦しみを抱えている人へ

もし、
過去のミスや事故を思い出して、
自分を責め続けている看護師さんがいたら。

あなたは、決して一人ではありません。

その苦しさは、
それだけ患者さんのことを大切に思ってきたからこそ、
簡単に忘れられないのだと思います。

失敗のない医療者はいません。
大切なのは、
その後、どう向き合い、どう生きてきたかだと思います。

私は、あの出来事を抱えたまま、
それでも看護の仕事を続けてきました。

あの日の患者さんのことは、
今もずっと心に残り続けています。

そして今、
ようやくこの経験を少し落ち着いて言葉にできるようになりました。


おわりに

この文章が、
どこかで同じように苦しんでいる誰かの、
心を少しでも軽くできたら。

それだけで、
この経験には意味があったのかもしれないと、
今は思えるようになりました。

医療の現場では、
看護師を含め誰もが「絶対にミスをしたくない」と願いながら働いています。

「アマランサス」
花言葉:「不滅」「粘り強い精神」「終わりのない愛」

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