はじめに
「変わりたい」と思うほど、私たちは大きな目標や強い意志に目を向けがちです。
けれど実際の毎日は、とても小さな選択と行動の連続。
最近の私は、「がんばる」よりも「続けられる」ことに目を向けるようになりました。
脳や心に負担をかけず、執着しすぎない。
そんな“心地よい習慣”が、結果として自分を支えてくれるのではないかと感じています。
この記事では、脳科学や心理学の視点を交えながら、
日常の小さな習慣がもつ力について整理してみたいと思います。
「習慣」とは、意志ではなく脳の仕組み
私たちの行動の多くは、実は“考えずに”行われています。
歯を磨く、顔を洗う、スマホを手に取る――
これらは毎回強い意志で決めているわけではありません。
脳科学では、習慣的な行動は主に大脳基底核という部分が担っていると言われています。
ここは「省エネ」を得意とする領域で、
一度パターン化された行動は、できるだけ自動運転にしようと働きます。
つまり、
- 習慣になる前:前頭前野(考える脳)をたくさん使う
- 習慣になった後:エネルギー消費が少なくなる
という違いがあります。
「続けるのがつらい」のは、意志が弱いからではなく、
「まだ脳にとって“省エネ行動”になっていないだけ」なのかもしれません。
| 状態 | 主に使われる脳 | 脳の働き方 | 感じやすいこと |
|---|---|---|---|
| 習慣になる前 | 前頭前野(考える・判断する脳) | 常に考えながら行動する | 疲れやすい・面倒・続かない |
| 習慣になった後 | 大脳基底核 | ほぼ無意識の自動運転 | エネルギー消費が少ない・ラク |
脳は、報酬・快/不快と結びついて行動を固定化する
”続ける力”はこの大脳基底核の働きが大きく関わっていると考えられています。
そして、大脳基底核は、報酬・快/不快と結びついて行動を固定化します。
すごく難しく聞こえますが、これは、
「脳は”正しい”よりも”快・不快”で判断する」ということなのです。
私たちはよく
「体にいいから」「やった方がいいから」
と頭で考えて行動しようとしますよね。
でも脳(特に大脳基底核)は、
正しさよりも感情の結果を重視します。
- やってみて
→ 少しホッとした
→ 気持ちが軽くなった
→ 達成感があった
こうした”快”があると、脳は
「これはまたやろう」と判断します。
脳にとっての報酬って何?
- 緊張が下がった
- 不安が減った
- 嫌な気持ちから解放された
- 「できた」という感覚
といった、
気分が少し良くなる変化そのものです。
反対に、
- 疲れた
- つらい
- 恥ずかしかった
- 責められた気がした
こうした体験は「不快」として記憶され、
脳はその行動を避ける方向に動きます。
行動が「習慣化」・「固定化」される流れ
- ある行動をする
- そのあとに「快」または「不快」を感じる
- 脳がセットで記憶する
- 快と結びついた行動
→ 繰り返されやすい(習慣になる) - 不快と結びついた行動
→ 避けられやすい(続かない)
「やる気がないから続かない」
「意志が弱いから三日坊主」ではないのです。
その行動のあとに、脳が“快”を感じられていない
という状況だということがよく分かったと思います。
つまり習慣は、意志の強さで決まるものではない。
行動のあとに「少しホッとした」「ちょっと気分が良くなった」
そんな感覚があるかどうか。
脳はその“快・不快”を手がかりに、
繰り返す行動を選んでいるのです。

思考のくせも「習慣」になる
行動だけでなく、考え方にも習慣があります。
- つい最悪の結果を想像してしまう
- 自分に厳しい言葉をかけてしまう
- 他人と比べて落ち込んでしまう
これらも、長い時間をかけて身についた「思考の習慣」です。
心理学では、こうした自動的な思考を
認知のクセ(自動思考)と呼びます。
(他の記事でも”思考の癖”について少し触れています。
→『思考の癖をほどく—訪問看護の現場から見えた“心の整理”の方法』)
大切なのは、「なくそう」と戦ったり抗わず、
「あ、今こういう考え方が出てきた」
と、少し距離をとって気づくことです。
「気づく」だけでとどめて、深堀りはしなくてもいいのです。
この、”気づく回数が増える”だけでも、
脳は少しずつ新しい回路を使い始めると言われています。
すごい変化だと思いませんか。
セルフケアは「がんばらない習慣」
セルフケアというと、
特別なことをしなければならないように感じるかもしれません。
けれど実際は、
- 朝、深呼吸をする
- 起きたら、背伸びをする
- 白湯やハーブティを飲む
- 寝る前にスマホを置く時間をつくる
- 両手を上にあげてみる
そんな小さな行動でも十分です。
ポイントは、
「効果を出そう」と執着しすぎないこと。
心理学的にも、
「ちゃんとやらなきゃ」「続けなきゃ」と思いすぎると、
かえってストレス反応が強まることが知られています。
心地よいかどうか。
今の自分に合っているかどうか。
それを基準に選ぶセルフケアは、
自然と長く続きやすくなります。
きっと知らず知らずのうちに続けている
心地よい習慣はすでにたくさんあるように。
小さな習慣がもたらすもの
日常の小さな習慣を続けることで、
すぐに劇的な変化が起きるわけではありません。
けれど、
- 自分自身を信頼する感覚
- 心が揺れたときに戻れる、帰れるところ
- 「今日はこれができた」という静かな満足感
こうしたものが、少しずつ積み重なっていきます。
これは自己効力感(self-efficacy)と呼ばれ、
心理学では心の安定や回復力に深く関わる要素とされています。
「自分はそれをやれる」「うまく対処できる」という感覚のことです。
心理学者アルバート・バンデューラが提唱した考え方で、
能力そのものよりも、「できそうだと感じているか」に注目します。
よく混同されますが、自己肯定感との違いは以下です。
- 自己肯定感:
→「自分はこのままで価値がある」という感覚(存在そのもの) - 自己効力感:
→「この行動・課題は自分にできる」という感覚(行動への自信)
どちらも大切ですが、
行動を起こす力に直結するのが自己効力感です。
自己効力感が高いと、
- 新しいことに挑戦しやすい
- 失敗しても「やり直せばいい」と思える
- ストレスに折れにくい
- 行動を続けやすい(習慣化しやすい)
と、たくさんの嬉しい姿勢・思考が高まるのです。
そして、こうした積み重ねが、自己効力感を自然に育てていきます。
これを知って、私は自己効力感を育てたくもなりましたが、
同時に、力んだり、意気込んだりするものではないのかもしれないとも思いました。
「執着しない」という選択
習慣を大切にすることと、
習慣に縛られることは、似ているようで違います。
- できない日があっても責めない
- 今の自分に合わなくなったら手放す
- また戻りたくなったら、戻ればいい
このくらいの距離感が、
脳にも心にもやさしいのだと思います。
執着せずに、そっと流せる。
また別の選択に切り替えられる。
今日はこれやってみようと思える。
そんな気持ちがあると、
いつの間にか心も体も軽くしてくれますよね。
おわりに
「心地よく生きる」という言葉は、
とても曖昧で、正解もありません。
そして、毎日変わるものかもしれません。
だからこそ、
日々の小さな習慣を通して、
自分なりの感覚に気づいていくことが大切なのだと思います。
自分の良かれと思って頑張った行動が、
いつの間にか自分を縛るものにならないように。
完璧にやらず、できなくてもいい。
自分を責めずに、気の向くまま、他の方法を試してみる。
これはすでに、自分の心地よい習慣を探したり、
自分を大切にする行動の大きな一歩だと思います。
私自身も、まだ試行錯誤の途中です。
けれど、学びながら、感じながら、
今日できる小さな習慣を大切にしていきたいと思っています。
そして、
この記事が、誰かの「ちょうどいい習慣」を見つける
きっかけになれればうれしいです。



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