「お別れホスピタル」を観て思い出した、患者さんの「すみません」という言葉

看護師エッセイ
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「お別れホスピタル」を観て思い出した現場の記憶

たまたまテレビをつけていて、偶然目にしたドラマがありました。
「お別れホスピタル」という、療養型の病院が舞台の物語です。

細かい説明的なセリフは多くないのに、
人が生きることや死ぬことを、静かに温かくとらえているような感覚がありました。

俳優さんたちの自然な演技や、
静かに流れていく時間。
派手な展開があるわけではないけれど、
気がつけば、ついつい最後まで見入ってしまいました。

ドラマを観ながら、
「ああ、こんなことあったな」と思い出す場面がいくつもありました。

患者さんとの何気ない会話や、
ふとしたしぐさ、
家族との距離感。

細かい患者さんの生きてきた姿が、
何気ない言葉やまなざしの中に、にじみ出ているように感じました。

このドラマは、静かに心に残る、とても好きな作品になりました。


「すみません」と言う患者さんたち

痛みを我慢しながら、
家族に気を遣い、
「すみません」と言う。

ドラマの中でも、
そして現実の現場でも、
そんな場面に何度も出会ってきました。

その姿を見ると、
この人はきっと長い人生を誰かのために生きてきた人なのだと、感じます。


弱音を吐かない患者さんが多かった理由

弱音を吐かない患者さんが多かったのは、
どうしてだったのだろうと、今でも思うことがあります。

患者さんや利用者さんと話していると、
よく
「看護師さんは健康そうでうらやましい」
と言われていました。

けれど実際は、
自分自身もぼろぼろの状態で、
なんとか働いていた時期もありました。

はじめて、自分も死を意識するような病気を経験したことがあります。

あるとき、終末期の患者さんに
「死ぬかもしれないと思ったとき、看護師さんはどう思った?
死ぬのは怖くない?」
と聞かれたことがありました。

とても難しい質問でしたが、
これは嘘のない答えをしなければいけないと思いました。

「怖さよりも、
今会えている人と会えなくなる寂しさのほうが強かったです。」

そう答えたとき、
その方は、ずっと気丈にしている品のある女性でしたが、
少し間をおいて
「そう、そうなのね。」
とだけ言って、少し涙ぐまれていました。

あのときの言葉が、
その方にとってよかったのかどうか。
今でも、ときどき思い返すことがあります。

その方は、その後一気に病状が進み、
痛みを我慢しないようにお伝えし、
病院の緩和ケアに搬送され、
数日後に亡くなりました。

この出来事を思い出すと、
今でも胸の奥が少し熱くなります。


思い出す、さまざまな患者さんと家族の姿

もちろん、
穏やかな方ばかりではありませんでした。

ナースコールを目の前にいても連打されることもありましたし、
声が出せないけれど、
筆談で思わず笑ってしまうようなことを書いてくれる方もいました。
「寂しいから、ここにいて」と、手を放してくれない方も。

家族関係が複雑で、
病室の外で怒鳴り声が聞こえることもありました。

財産のことで揉める家族や、
長い間引きこもっていた家族、
終末期にもかかわらず、
書類のサインをさせるために文字の練習を続けさせている場面に出会ったこともありました。

認知症の影響で、
同じ言葉しか話せなくなっても、
抑揚だけで気持ちを伝えようとする方。

せん妄の中で、
酸素や点滴を外してしまい、
気がつけば床が血だらけになっていたこと。

抑制をすり抜けて、
何度も自己抜管してしまうほど、
体が驚くほど柔らかい方もいました。

振り返ってみると、
本当にいろいろな方がいました。

人と関わることは大変なことでもありますが、
同時に、
自分が生きているという感覚や、
誰かと関われることのすばらしさを、
強く感じていた場所でもあったように思います。


「生きている感覚」が濃い場所だった

ドラマの中では、
患者さんとの何気ないやり取りが、
ゆっくりと時間が流れているように描かれていました。

実際の現場では、
そんなふうに一つ一つの時間を
丁寧に味わう余裕は、
なかなか持てなかったように思います。

それでも、
あの場所は、
今よりもずっと「生きている」という感覚が、濃く感じられる場所だったのかもしれません。

言いたいことを話すのではなく、
伝えたいことを話す大切さ。

余計な一言を言わない人のほうが、
人との関係を大切にしていたこと。

そんなことも、
このドラマを観ながら、あらためて思い出しました。

静かに進んでいく物語の中で、
人が生きることや、
人と関わることの重みを、
あらためて感じさせてもらった気がしています。

あの場所で出会った人たちの姿は、
今でも私の中に、静かに残り続けています。


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