「人生は一度きりなので、楽しんだ方がいい!」
「辛い状況でも、人生を楽しむことで乗り越えられる!」
――そんな言葉を耳にすることもあります。
一方で「楽をしたい」と言うと、どこか後ろめたい気持ちになります。
「楽しい」は、誰にとっても素敵な言葉ですが、同じ「楽」という漢字なのに、どうしてこうも印象が違うのでしょうか。
音の響きのように、心をゆるめる言葉
昔の「楽」という漢字は、音楽を意味していたそうです。
木と糸でつくった楽器を表す文字で、音を奏でることで人の心を和らげる。
――そんな場面から生まれたと言われています。
つまり「楽」とは、本来“心がやわらぐこと”そのものだった。
それを知ると、少しほっとしました。
「楽する」ことも、「楽しい」と感じることも、根っこは同じだったんだと。

「たのしい」と「らく」は、遠い親戚
古い日本語で「たのしい」は、「たのむ」から生まれた言葉だそうです。
心を寄せ、信じ、安心できる
――そんな温かい意味を持っていた。
一方、「らく」は中国の「樂(lè)」がもとになっていて、「苦がない」「穏やか」という意味だった。
だから、もともとの「らく」も「たのしい」も、どちらも“安心していられる状態”を指していたのかもしれません。
「らく=悪いこと」という思い込み
私たちはいつの間にか、「らくをしてはいけない」と教えられてきたように思います。
日本では、「努力は美徳」「楽をすると怠け者」といった価値観が根強いですよね。
努力しないと価値がないとか、頑張らなければ報われないとか。
でも、がむしゃらに頑張っているときほど、心は張りつめて、“楽しい”なんて気持ちは、どこかに置き忘れてしまいます。
そして“がんばり”を続けることが目的になってしまうと、本来の「生きる楽しさ」からは少しずつ遠ざかってしまう気もします。
この思い込みは、私は強くありました。20代の頃は、まさしく「頑張っても報われない」という言葉を実際何度も口にしていました。
けれど、生きていく上で少しずつ思い込みがほどけていく感覚もあります。
悲しいけれど、頑張った先に、必ずしも報いは無い。
むしろ、大変さを楽しめている時の方が報われていると感じるようになりました。
そしてまた、頑張りに対して、すぐではなくても後に報われるという経験もある。

「楽」は、どちらも生きるための音や色
「らく」と「たのしい」は、対立するものではなく、どちらも「楽」というひとつの音や色の中に溶け合っているのかもしれないですね。
「楽しい」も「楽(らく)」も、どちらも“生きる音”。
音楽には、高い音や低い音、細い音や太い音、長さやリズムや響きが違いますが、その色々な音色が調和することで、音楽にもなります。
だから、楽をすることは、悪いことじゃないんだと。
それは、心の中の音を静かに整えるし、それによって少しの余白が生まれれば、人はまた「楽しい」と感じられるようになる。
おわりに “楽・らく”は心のバランス
“楽をしたい”と思うとき、それは怠惰な意味の楽ではなくて、もしかしたら、“もう少し自分を大切にしたい”という心の声なのかもしれないです。
「楽しい」と「らく」は、同じ場所から生まれた言葉です。
どちらも、幸せな言葉で、幸せに必要な言葉。
肩の力を抜いて、楽に、楽しく生きていきたいものですね。



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