看護師の仕事を「お金」や「時間」で見つめなおす

看護

数字では測れない仕事を、あえて数字にしてみる

「吸引に500円、記録は0円。見えないケアをお金で考える」
「看護師の1分はいくらになる?」
「お金にならない仕事ほど、心を使う」


——そんな言葉が頭に浮かびながら、このテーマを書き始めました。
看護師として日々感じていた「数字では測れない仕事の価値」を、
あえて“お金”や“時間”という目に見える形で考えてみたいと思います。


看護のケアの価値や実際の報酬っていくらなんだろうという素朴な疑問。それと、家族ケアや記録や多職種連携などのお金にはならない仕事の価値とはなんだろう。
なかなか患者さんや利用者さんには見えにくい部分であり、見せたいところでもないのですが、社会的には知っておいて欲しいことでもあります。


みなさんも「看護師のケアって、実際にはいくらの価値があるんだろう?」
そんなことを考えたことはありませんか。


普段から仕事をする上で疑問に思っていたけど、日々疲れてしまっていたり、休日にまで仕事のことを考えたくないと、今まで何となく流してきたことを、今回はまとめていこうと思います。これを知っておくと、訪問看護の“中身”がより見えてきます。


「訪問看護のケアって、どんな作業がどのくらいの時間や費用にあたるの?」
そんな疑問を、実際の保険点数や人件費の目安をもとに整理してみました。
ここから少し専門的な部分もありますが、現場をより具体的にイメージしていただけると思います。



訪問看護における“見えない労働”の価値とは

バイタル測定、吸引、点滴や採血、経管栄養、排泄介助、清潔介助、家族対応など。
日々行っているこれらのケアを、医療報酬の点数や人件費をもとに表にしてみると、
以下のようになります。
あくまで目安の数値ですが、ぐっと現実的な金額に見えてきます。
けれど、実際の現場は、数字だけでは測れない部分も多いです。

時間・報酬・保険点数から見える“見えない価値”

ケア内容所要時間目安金額(看護師時給換算)保険点数(概算)算定上の扱い(目安)備考・専門性の要素
バイタル測定・観察約5~10分約750円―(包括内)訪問看護基本療養費に含まれる状態変化の早期発見に重要
採血約10分約1,100円約70〜80点検体採取料等として算定可医師指示下での医療行為
点滴管理(留置針・ルート確認含む)約20分約1,500円約300〜350点医師指示に基づく場合算定可無菌操作・薬剤管理含む
血糖測定+インスリン注射約10分約750円約250〜300点医師指示に基づく場合算定可低血糖リスク含む
経管栄養(胃ろう・経鼻)約15〜20分約1,100〜1,500円約250〜350点医師指示下で算定可栄養・感染予防管理
吸引約10分約750円約200〜300点医師指示下で算定可呼吸状態観察含む
在宅酸素療法(HOT)管理・指導約20分約1,500円約200〜300点医療機器管理加算対象安全管理・使用指導
人工呼吸器管理約30分約2,200円約500〜600点特別管理加算対象高度管理技術を要す
褥瘡処置約20分約1,500円約300〜350点医師指示下で算定可処置・評価・予防指導含む
ストマ管理約20分約1,500円約300点医師指示下で算定可皮膚トラブル・装具交換含む
摘便・浣腸約15分約1,100円約250点医師指示下で算定可苦痛緩和・排便コントロール
おむつ交換約10分約750円―(包括内)基本療養費に含まれる皮膚観察・体位変換含む
内服セット・服薬介助約10分約750円―(包括内)基本療養費に含まれる誤薬防止・服薬指導含む
口腔ケア約10分約750円―(包括内)基本療養費に含まれる誤嚥・感染予防目的
清拭・陰部洗浄約15分約1,100円―(包括内)基本療養費に含まれる清潔保持・褥瘡予防含む
入浴介助約30分約2,200円―(包括内)基本療養費に含まれるリスク観察・清潔援助
家族対応・説明約15分約1,100円―(包括内)基本療養費に含まれる精神的支援・教育
記録・報告書作成約20分約1,500円―(包括外)業務時間として必要だが算定不可情報共有・法的記録
多職種連携・会議参加約20〜30分約1,500〜2,200円―(包括外)サービス担当者会議加算などで算定可(上限あり)専門的意見・調整力

※この表の点数は、令和6年度(2024年度)診療報酬改定に基づく訪問看護療養費の概算です。
実際の算定は事業所の種別(機能強化型Ⅰ・Ⅱなど)や加算の有無、地域差によって異なります。
この金額は、実際の医療報酬や診療報酬点数を示すものではありません。
訪問看護で行われるさまざまなケアや医療行為を、看護師の平均的な時給(約4,500円/時)をもとに「1回あたりの所要時間」で換算したあくまでも目安の金額です。
ここで示している看護師の平均時給とは、厚生労働省の統計や求人情報などをもとにした全国的な平均値です。実際の金額は、勤務先や地域、経験年数などによって異なります。
この記事では、ケアの価値を金額でイメージしやすくするための「参考値」です。


これらの看護の仕事は、ひとつひとつの行為が点数化されていないことが多く、
その価値が見えづらい現状があります。
つまり、報酬としては評価されにくい“見えないケア”が数多く存在します。
どんな仕事でも、直接的にお金にはならないけれど、仕事として成り立つために必要な準備や過程、補助的な業務などがありますよね。


上記の表の保険点数の欄を見ると分かるように、「包括内・外」となっている項目が、処置・ケアそのものに値段がついていない状態です。


ここに書き出しきれていない、細かな業務もまだたくさんあります。
ひとつひとつの処置・ケア・声掛けには、技術や判断に責任が伴います。そのうえ、1人でたくさんの方を看ます。
表に載せた目安時間も状態や状況によって、これもかなり変動しますよね。


実際の現場では、この「ケアの時間」だけでは終わらず、膨大な記録・書類作成やご家族対応、多職種連携など、直接患者さん・利用者さんに関わらない時間もとても多いです。
入院や手術を受けたことがある方は、こんなにたくさんの書類にサインしないといけないの?と思ったことがあるかもしれません。退院して帰ってくるとこの書類の束、どうしようって思いますよね。けれど、患者さんに見えている書類はごく一部。


少しずつ、その負担軽減のために、医療業界にもカルテ等のAI化も進められてきているので、これは便利に使えるようになれば、だいぶ救われる方は多いのでしょうか。


ケア以外の「見えない労働」

訪問看護は、訪問時間が30分でも1時間でも、その前後に準備・記録・連携・移動といった業務が発生します。これらは診療報酬上はほとんど評価されない「非算定業務」ですが、実際の負担は想像以上に大きいものです。

行為内容所要時間(平均)金銭換算(人件費ベース)保険点数(算定上の扱い)内容例・備考
記録・報告書作成約20分約1,000〜2,000円―(包括外・算定不可)主治医・ケアマネ・家族への情報共有、法的記録義務
準備(物品・感染対策)約10分約600円―(包括内扱い)物品準備、衛生管理、訪問計画・指示書確認など
家族対応・説明約10〜15分約1,000円前後―(包括内扱い)状態説明・精神的サポート・教育的支援など
チーム連携・電話対応約10分約500円―(包括外/一部加算対象)他職種との調整・連携・情報共有(※担当者会議加算など該当時のみ)
移動時間約20〜40分約2,000円―(包括外・算定不可)訪問と訪問の間の移動時間・交通費含む実質拘束時間

上記は、訪問看護師が日常的に行っている業務のうち、「療養費(保険点数)」として直接算定できない部分をまとめたものです。多くの事業所では、これらの時間も業務時間として給与に反映されるものの、診療報酬としては評価されていないのが現状です。


一方で、これらの「見えない仕事」こそが、
在宅療養を支える重要なポイントでもあります。


1回の訪問にかかる実質時間を合計すると、約2時間前後になります。
金銭的に換算すれば約1万円前後の価値がありますが、
実際の報酬としては約5,000円しか支払われていません。


つまり、訪問看護の仕事のうち半分以上が「報酬にならない時間」なんです。
現実としては少し切ないところです。
ここでは訪問看護について書きましたが、訪問看護の世界に限らず、病棟で働いていた時も同じように報酬にならない時間が多いのが現実です。


数字では表せない“看る力”

看護師の価値は、手技そのものも大切ですが、
「判断」「観察」「寄り添い」にもあります。


たとえば――

  • 共感力(Empathy)
     相手の痛みや不安に心を寄せ、同じ目線で感じ取る力。
  • 洞察力(Insight)
     表面の症状だけでなく、背景にある心や生活の揺らぎを見抜く力。
  • 観察力(Observation)
     呼吸のテンポ、皮膚の色、声のトーンなど、微細な変化を捉える力。
  • 傾聴力(Listening)
     沈黙の中に隠れた思いを聴き取り、言葉にならない感情を汲み取る力。
  • 共鳴力(Resonance)
     患者や家族の感情に自分の感情を重ね、安心感を生み出す力。
  • 受容力(Acceptance)
     その人の生き方や価値観を否定せず、そのままを受け止める力。
  • 判断力(Clinical judgment)
     経験と直感を組み合わせ、瞬時に最善の対応を選び取る力。
  • 調整力(Coordination)
     医師・家族・介護職など、多様な立場をつなぎ、最適なケアへ導く力。
  • 支える力(Supportive presence)
     そばにいることで、人に安心や希望を持ってもらう力。


呼吸のわずかな変化から異常を察知する力。
家族の表情の曇りから疲弊を感じ取る感受性。
何気ない会話の中からSOSを拾い上げる傾聴力。


そしてそれらに加えて——


相手の痛みに心を寄せる共感力、背景を読み取る洞察力、どんな状況も受け止める包容力。
看護師の「看る力」は、単なる技術ではなく、人の命や心の変化を感じ取る、繊細な感性の積み重ねが大切だと思っています。


これらは、報酬や評価に直接的ではないものの、利用者の安全と生活を支える、看護師の大切な“見えない専門性”です。



看護の価値を見える化するということ

もし看護師のケアをすべて金銭的に評価したら――
1件あたり約1万円。


ただ、そこで生じる「安心」や「つながり」は、やはり数字には置き換えるのは難しい。
「質」を数字化することは難しいですよね。


「見えない労働」や「看る力」を、完全に数値化・点数化することは難しいけれど、
「可視化」することは可能だと思います。
つまり「評価する」よりも「見える形で共有する」方向が現実的で、そして本質的なのだと思います。もちろん、医療や介護の世界の報酬はしっかり上げてもらいたいものですが。


「見えない労働」を数値化することは、決して“お金の話”だけではなく、
看護の専門性を社会に伝える手段でもあります。

看護の質を評価するには、プロセス評価・アウトカム評価・ナラティブ評価といった視点が必要だと思っています。


①プロセス評価
「何をしたか」だけでなく、「どのように関わったか」を記録・共有する。

②アウトカム評価
「夜間の不安が減った」「家族が笑顔を見せるようになった」など、数値ではなくても行動や表情の変化を丁寧に捉えること。患者のQOL(生活の質)や自己決定の促進など、看護の成果を患者や家族の変化としてとらえる。

③ナラティブ(語り)評価
見えない看護の力(共感・洞察・受容など)は、言葉での記述が一番伝わりやすく、“質”を伝える有力な手段となります。利用者・家族・看護師それぞれの「物語(語り)」を集め、ケアの意味や効果を多面的にとらえる方法。


「見えない看護の力」を見える形にする工夫として、
具体的には、利用者アンケートや家族の声を取り入れて、看護師自身が見えない部分を、受け手の視点から補うことができます。

記録やケースカンファで、「判断の根拠」を言語化していく。なぜそう対応し、なぜそう声をかけ、なぜあえて声をかけなかったのかなど、それぞれの根拠が見えてきます。


同行訪問や振り返りで、第三者の視点を入れてみる。
他の看護師の目や手でも看てもらう。
その観察や言葉が、自分では気づけない“看護の質”を向上してくれる大事なポイントだと思います。

おわりに

  • 看護師のケアは、1回あたり5,000〜7,000円の価値
  • 記録・家族対応・移動などを含めると、実質は倍以上の労働量
  • それでも評価されにくいのは、「看る力」が数値化しづらいから

看護の本質は人に寄り添うこと。
でも、その行為を正しく伝えたり、理解し合うためには、
数字という“共通言語”で見える化することも、私たちにできる一歩だと思います。

とても労力や勇気のいることかもしれません。時間もかかるとは思います。
けれど、前述した看護の質の部分が共有でき、そんな会話が日常的にできる職場が増えるといいなと密かに思っています。

コメント