クレーム対応で看護師を壊さないために――仕組みづくりのヒント

看護
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はじめに

訪問看護の現場では、
クレーム対応や困難ケースが、
特定の看護師に集中してしまう構造が起こりやすいと感じています。

「この人なら対応できる」
「経験があるから」
「我慢強いから」

そうした理由で、
いつの間にか一部の看護師に負担が偏る構造が生まれやすくなります。

けれど、クレーム対応は
個人ではなく、事業所全体で担うべき業務

今回は、
看護師を守りながら、
利用者さんの満足度も下げないための
クレーム対応の仕組みづくりについて考えてみます。


なぜクレームは「個人任せ」になるのか

クレーム対応が属人化する背景には、
いくつかの要因があります。

  • 忙しさによる話し合い不足
  • 管理者の業務過多
  • 判断基準の不明確さ
  • その場しのぎの対応
  • 「波風を立てたくない」文化
  • 教育体制不足

結果として、
とりあえず、対応できそうな人に任せる
という流れが常態化します。

この状態が続くと、
対応できる人ほど疲弊し、燃え尽きていく
という悪循環に陥ります。

「担当者の力量」で解決しようとするほど、
現場の疲弊と離職を加速させてしまいます。

クレーム対応で最も苦しくなるのは、
「自分の対応が悪かったのではないか」
「もっと何かできたのではないか」
「私が我慢すればいい」
「まだ耐えられる」
と、すべてを個人の責任として背負ってしまう時です。

けれど、実際のクレームの多くは、
医療技術そのものではなく、
不安・孤独・限界感といった感情の表出であることが少なくありません。

本当に必要なのは、
クレームを可視化し、チームで共有し、
期限を決め、評価し、対策を講じる仕組み
なのだと思います。


クレームを「見える化」する

まず必要なのは、
クレームの可視化 です。

① クレーム記録の共有

  • 内容
  • 頻度
  • 要求レベル
  • 感情の強さ
  • 対応履歴

これらを
スタッフ全体で共有できる形にします。

「個人の愚痴」ではなく、
事業所の課題として扱うことが重要です。


クレーム対応を「評価」するという視点

クレーム対応は、
高度なコミュニケーションスキルと判断力を要します。

それにも関わらず、

  • 当然の業務
  • 当たり前
  • 誰でもできること

として扱われがちです。

クレーム対応をしたスタッフには、

  • 労いの言葉
  • 評価
  • 業務量の調整

など、
目に見える形でのフィードバックが必要です。

困難ケース・クレーム対応の評価指標

困難ケースを「個人の責任」にしないための評価指標です。

ここでいう「困難ケース」とは、
必ずしもクレームが多いケースだけを指すものではありません。

医療的リスクや生活環境、家族背景など、
複数の要因が重なり、支援の難易度が高くなっている状態全体を指しています。

クレームは、その一つの「表れ方」に過ぎないことも多いのです。

評価領域具体的指標現場で起こりやすい状況
医療的要因・急変リスクが高い ・医療依存度が高い ・症状コントロール困難夜間・休日の緊急連絡増加 訪問ごとに緊張が強い
生活・介護力・独居・老老介護 ・介護力不足 ・介護疲労小さな変化でも不安が増幅 依存的な連絡が増える
認知・精神面・認知症 ・精神疾患 ・強い不安・被害感拒否・暴言・クレーム頻発 説明しても納得されない
家族関係・意向不一致 ・家族内トラブル ・キーパーソン不在板挟みになる 感情的クレームが続く
制度・社会資源・介護保険限界 ・経済的困窮 ・地域資源不足サービス不足への不満 現場への過度な期待

クレーム対応や困難ケースを、
「感覚」や「経験」だけで判断し続けると、
どうしても負担は特定の人に集中していきます。

そこで有効なのが、
困難度を客観的に評価するスコア化という考え方です。

「誰が対応するか」ではなく、
「どれくらい支援が必要なケースか」
チーム全体で共有できるようにします。

カンファレンスやケース検討時に、
主観だけでなく、このスコアを用いて
チーム全体で困難度を共有することで、
支援の必要性や対応レベルを客観的に話し合いやすくなります。

以下は、研究報告や学会資料をもとに、
現場で使いやすい形に再構成した
困難ケース評価スコアシート(例) です。

訪問看護の「困難ケース評価スコアシート」(例)

【1】利用者要因(0〜3点)

  • 認知症の進行による意思疎通困難(0〜1点)
  • 精神疾患・気分障害による対応困難(0〜1点)
  • 終末期で急変リスクが高い(0〜1点)

【2】家族・支援者要因(0〜3点)

  • 家族の介護力不足(0〜1点)
  • 看取りや病状理解に乏しい(0〜1点)
  • 虐待・ネグレクトの可能性(0〜1点)

【3】環境要因(0〜3点)

  • 自宅が不衛生・不適切な環境(0〜1点)
  • 医療資源の不足(0〜1点)
  • 社会的孤立・地域とのつながりがない(0〜1点)

【4】看護職側要因(0〜2点)

  • スキル・経験不足による対応困難(0〜1点)
  • 感情的負担が大きい(0〜1点)

【5】その他(任意項目:0〜3点)

  • 法的リスク・訴訟リスク(0〜1点)
  • クレーム頻発・理不尽要求(0〜1点)
  • 多職種連携困難(0〜1点)

合計点による対応レベルの目安

合計点評価対応方針
0〜3点通常対応通常の訪問体制で対応可能
4〜6点中程度困難定期的なケース検討が必要
7点以上高度困難ケースチーム支援・管理者報告・専門職介入

このスコア化がもたらすメリット

① スタッフの精神的負担を可視化できる

「なんとなくつらい」が数値になることで、支援要請がしやすくなります。

② 業務配分の公平性が保てる

負担の偏りを防ぎ、燃え尽き防止・離職予防につながります。

③ 管理者・主任の判断が楽になる

配置・同行・カンファレンス導入の判断が、感覚ではなく根拠に基づいて行えるようになります。


実際の研究・資料との関連性

このような困難ケース分類は、以下のような研究・学会資料でも報告されています。

  • 厚生労働科学研究
    「訪問看護における困難事例の類型化と支援策に関する研究」
  • 日本訪問看護財団
  • 訪問看護学会誌
  • 地域包括ケアシステム 多職種連携チェックリスト

本記事のチェック表は、それらを現場用にアレンジした実践モデルです。


期限と判断ラインを決める

対応を続けるか、
他事業所への移行を検討するか。

この判断を
個人の感覚に委ねないことがとても重要です。

例えば、

  • 一定期間対応しても改善が見られない
  • スタッフの負担が過剰
  • 尊厳が傷つけられる言動が続く

このような場合には、
事業所として支援体制の見直しや移行を検討する

という
判断基準と期限設定
あらかじめ決めておくことが、
スタッフを守ることにつながります。


困難ケースとは、
決して「厄介な利用者」や「問題のある家族」を指す言葉ではありません。

医療的リスク、生活環境、家族関係、精神面、制度の限界など、
複数の問題が重なり合い、
ご本人やご家族・支援者の全員が「困っている」状態を指します。

つまり、
困難ケース=誰かが悪いのではなく、構造的に無理が生じている状態
と捉えることが大切なのだと思います。


クレーム対応は「専門業務」である

クレーム対応は、
単なる我慢比べではありません。

  • 状況分析
  • 感情調整
  • 交渉
  • 境界線設定

これらを同時に行う、
高度な専門業務 です。

それを
「根性」「忍耐」「我慢」で処理し続ける職場は、
必ず限界を迎えます。


おわりに

クレーム対応の仕組み化は、
スタッフを守るためだけのものではありません。

結果として、

  • ケアの質の安定
  • 離職率の低下
  • 利用者満足度の向上

にもつながります。

看護師が壊れない職場は、
長く、安定して、
良い看護を提供し続けられる職場です。

声が大きな人だけが働きやすくなるのではなく、
声が小さくても、公平性があって、
安心して発言できるような職場が増えることを願っています。

そのための
小さな一歩としての仕組みづくり が、
今、求められているのではないでしょうか。


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現場で感じる「しんどさ」の正体について、
心理的な視点からまとめています。

看護師が壊れていく構造と尊厳 ――クレーム対応と「因果応報」に縛られた体験

対応方針チェック表(PDF)

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