看護師は心を病みやすいのか――ケアする人にも『安全安楽』を

看護師エッセイ
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はじめに

看護師という仕事は、
・病気のケア
・生活のサポート
・不安や痛みへの寄り添い など
人の健康や命に関わる、主にケアをする側の仕事です。

一方で、医療の現場ではときどき
「看護師は寿命が短い」
「医療者は心を病みやすい」
そんな話を耳にすることがあります。

実際のところはどうなのでしょうか。
私自身、看護師として働く中で、
心身のバランスを崩した経験があります。
だからこそ、「看護師は心を病みやすい」と言われる背景には何があるのか、
改めて考えてみたいと思いました。


看護師の寿命は本当に短いの?

結論から言うと、
看護師の寿命が特別に短いという明確なデータはあまりありません。

むしろ医療職は

・健康に関する知識がある
・医療へのアクセスが良い

といった理由から、
平均寿命に大きな差はないとも言われています。

ただし、仕事の負担が大きい職業であることはよく知られています。
夜勤やオンコールなど、生活が不規則になり、
常に緊張状態が持続しているストレスは大きいです。

寿命とは別のところで、
こうした働き方は生活にも少しずつ影響していきます。
暦通りに働く友人との約束やイベントには、
なかなか参加できません。
もしくは夜勤明け寝ないで出かけたり、
遊びや趣味にも体を張っている感覚はあります。

不規則な生活が続くと、
眠りたいのに眠れないという悩みを抱える人もいます。
私自身、周囲でも睡眠の悩みを抱えながら働いている人をたくさん見てきました。


夜勤・オンコールによる睡眠への影響

夜勤やオンコールでは、
生活リズムが乱れやすく、
十分な睡眠時間を確保することが難しくなってしまいます。

人間の体には「概日リズム(体内時計)」が備わっていますが、
不規則な勤務はこのリズムを崩して、
慢性的な睡眠不足や睡眠の質の低下につながることが分かっています。

日本では睡眠に何らかの不満を感じている人が
約6割いるという調査もあります。
夜勤やオンコールのある医療職では、
さらに睡眠の問題を抱えやすいことは想像に難くありません。

近年の研究では、
交代勤務を行う人は日勤者に比べて睡眠障害のリスクが高く、
不眠や日中の強い眠気、慢性的な疲労を抱えやすいことも報告されています。

さらに、睡眠不足は
免疫機能の低下や高血圧、糖尿病、心血管疾患、うつ症状などのリスク上昇とも関連しています。

また、睡眠の乱れは集中力や判断力にも影響し、
医療現場ではヒヤリ・ハットや医療安全上のリスクにつながることも指摘されています。

そして、夜勤ではなくても
オンコールといって、いつ鳴るかわからない電話を持つストレスも大きいです。

出かけてはいけないということではありませんが、
私は、やっと会えた友人との夕食中にオンコールが何度も鳴ったことがあります。
途中で会話が途切れたり、席を立つことになり、
相手にも申し訳ない気持ちになりました。

仕事から完全には離れられない感覚が続くと、
次第に出かけること自体をためらうようになっていきました。

しかも2カ月間、連日のオンコール当番でした。
いつ電話が鳴るか分からず、
人との約束もためらうようになり、
社会の中で働いているのに、どこかそんな社会から切り離されたような感覚でした。
今振り返ると、一人でコロナ禍を味わっていたような気分です。


医療者のメンタルヘルス

医療の仕事は、身体的な負担だけでなく
精神的な負担も大きい仕事です。

例えば

・夜勤や不規則な勤務
・人の命に関わる責任
・患者や家族の感情に向き合うこと
・職場の人間関係

こうした要素が重なると、
心身のバランスを崩してしまう人もいます。

実際、医療者のメンタルヘルスは
世界的にも課題として研究されています。

最近はSNSで、
他の国の看護師があげている動画を目にすることがあります。
環境が整っているように見えるものもあれば、
同じような悩みを抱えているようなものまで様々です。
悩みが共感できると、少しほっとする反面、
課題が多いとも言えるなぁと複雑な気分になります。


「ケアする側」の難しさ

医療者は、基本的に
人を支える役割にいることが多い職業です。

患者さんの不安を受け止め
家族の思いに耳を傾け
チームの中で役割を果たす。

そうした仕事を続けていると、
知らないうちに自分の気持ちを後回しにしてしまうこともあります。

「自分が頑張れば何とかなる」と考えてしまう人も少なくありません。
患者さんを優先し、スタッフを優先し、家族を優先し、
自分のことは後回しになる――そんな経験をした人も多いのではないでしょうか。


自分のことは後回しになりやすい

健康についての知識があっても、
なぜか、自分のケアには目が向かないこともあります。
「ケアする側」を生業とすると、そこから抜け出すことが難しくなる。
ある意味、職業病かもしれません。

忙しさ
責任感
周囲への気遣い

そうしたものが重なると、
自分の疲れやストレスに気づく余裕がなくなってしまうこともあります。

ヒヤリハット・インシデントレポートを書く機会は多いですが、
現場では十分に振り返りや支援につながらないと感じることもあります。
ただ、ひたすら自分のミスを公にする作業にも見えることもあります。

例えば、病気によって混乱していて転倒した場合。
レポートを書く=たまたまその時に担当していた看護師の責任、
といったように感じてしまいます。
そこでケガをした場合、ご家族からの責められることもあります。

激務の中で、どうにも手が足りないし、
どうやったって事故は完璧には防げないけれど、
そんな状況を主張することもできない。
なんともやるせない気持ちになってしまいますよね。

こんな看護師の業務のしくみそのものが、
自分自身を後回しにしやすくするのかもしれません。


医療者もまた一人の人間

医療の現場にいると、
どうしても「強くあること」が求められる場面があります。

けれど、医療者もまた
一人の人間です。

疲れることもあれば、
気持ちが沈むこともあります。

そうしたことは、決して特別なことではありません。

知識や経験があることと、
自分自身をケアできることは必ずしも同じではありません。

強くあることは、
スルーする力とも言えるかもしれませんが、
もしかしたら自分の疲れやつらさに気づかないふりをすること、
あるいは見過ごしてしまう力に近いのかもしれません。

けれど、
本来の自分を変えてまで長く頑張り続けることは、
やはり無理があるように思います。

疲労が抜けないと、
自分自身がもっている看護師のイメージから、
献身的でなければならない、
優しくなければならない、
という呪縛のようなものにとらわれてしまいます。


ケアする人のケア

最近では
「ケアする人をケアする」
という考え方も少しずつ広がってきています。

医療者自身のメンタルヘルスを守ることは、
結果的に患者さんのケアにもつながると言われています。

コロナ禍を経験して、
エッセンシャルワーカーと言われる仕事にも少し注目が集まった時期もありました。
それを機に、少しでも変わっていってくれたらと思います。
ケアする人にも、安心して過ごせる権利がある。

けれど、どんなことでも
急に大革命が起こることは難しいので、
自分でできるセルフケアを
意識的に取り入れていくことが、
働くために大切になってくるのだと思います。

看護目標によく使われるものを、
自分にもそうしていく。
『安全安楽に安心して過ごせる』という長期目標をもつ。

昔、キャリアシートに”裏目標”という
自分のためのプライベート目標を立てよう!と
先輩と面白おかしく話したことを思い出しました。
これってすごく大切だったのだと今になって感じています。


おわりに

ケアする仕事は、
人の人生に深く関わる尊い仕事です。

だからこそ、
支える側が疲れ切ってしまわないことも、
とても大切なのだと思います。

患者さんを大切にするように、
自分自身の心や身体にも目を向けること。

自分にも看護計画を立てるように、
「安全安楽に安心して過ごせる」を長期目標にしてみる。
そんな視点が、ケアする人自身を守ることにつながるのかもしれません。

読んでくださった方が、
これ以上、無理して頑張りすぎないように、
自分のことをケアすることも優先順位をあげてくれたら嬉しいです。


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