人体って、おもしろい⑤|眠っているあいだ、内臓は何をしている?

看護
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はじめに

子どもの頃、
夜になるとお腹が痛くなることがありました。

毎晩のように痛くなる時期もあり、
親に病院へ連れて行ってもらったこともあります。

ところが、不思議なことに
病院に着く頃になると、
いつの間にか痛みが落ち着いてくる。

もともと私は便秘がひどく、
子どもの頃は週に1回出ればいいほうでした。
学校では何だか無性に恥ずかしくて、
トイレに長くこもることもできず、我慢していたのを覚えています。

だからあの痛みは、今思うと、
便やガスが関係していた可能性もありますし、
ほかにもいくつかの要因が重なっていたのかもしれません。

そして今では時々、ゆっくり休んでいると、
お腹がグルグルと気持ちよく鳴ることがあります。

では、眠っているあいだ、
私たちの内臓はどうしているのでしょう。


眠っていても、内臓は休んでいない

眠っているあいだも、
心臓は動き続けています。

ただし、起きて活動しているときと、
まったく同じように働いているわけではありません。

眠りに入ると、体の活動量が大きく下がります。

それに伴って、心拍数や血圧も低下し、
心臓が1分間に送り出す血液量も、
活動しているときより少なくなります。

つまり、心臓は止まらずに働き続けながらも、
体全体が必要とする酸素や血液の量が減るため、
心臓の仕事量も小さくなります。

腎臓も、眠っているからといって仕事をやめるわけではありません。

血液をろ過して尿をつくる働きは続いていますが、
夜間は抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌が増えることで、
腎臓では水分を体内に戻しやすくなります。

そのため、
健康な人では夜間の尿量は昼間より少なくなり、
眠っているあいだに何度も尿をつくる必要がないよう調整されています。

肝臓も休んでいるわけではありません。

食事をしていない睡眠中にも、
血糖値を一定に保つために、
肝臓では蓄えていたグリコーゲンを分解したり、
必要に応じて糖をつくったりする働きが続いています。

こうして見てみると、
眠っているあいだは「内臓が休む時間」というより、
体全体の活動量が下がった状態に合わせて、内臓の働き方も切り替わる時間なのかもしれません。


ただし、昼間と同じように働いているわけではない

では、なぜ眠っているときには、
心拍数や血圧が下がるのでしょう。

その背景には、自律神経の変化があります。

自律神経には、活動時に働きやすい交感神経と、
休息時に働きやすい副交感神経があります。

眠りに入ると、一般に交感神経の活動が低下し、
副交感神経の活動が優位になります。

すると、心拍数が低下し、血圧も下がっていきます。

心臓が送り出す血液量も活動時より少なくなるため、
全身が必要とする酸素やエネルギーに合わせて、循環の仕事量も小さくなります。

ただし、これは「副交感神経だけが働いている」というシンプルな話ではありません。

睡眠には、ノンレム睡眠とレム睡眠があり、
睡眠の段階によって自律神経や心拍、呼吸の状態にも変化があります。

眠っているあいだも、体は一枚岩ではなく、
睡眠の深さや段階に合わせて細かく状態を変えているのです。

一方で、
脳や体が完全に休止しているわけではありません。
睡眠中にも呼吸や循環、体温調節など、生命を維持するための働きは続いています。

「眠る=体が止まる」ではなく、「活動の状態が切り替わる」と考えたほうが近いのかもしれません。


夜になると、お腹がグルグルするのはなぜ?

そして、私が子どもの頃から気になっていた
「お腹のグルグル」にも、腸の働きが関係しています。

腸では、筋肉が縮んだりゆるんだりすることで、
内容物を先へ送る蠕動運動(ぜんどううんどう)が起こっています。

さらに、食事から時間がたって
胃や小腸の中が空になってくると、
消化管では「空腹期収縮」と呼ばれる周期的な運動が起こります。

これは、胃や小腸の内容物を先へ送り出す、
いわば「食事と食事の間の掃除」のような働きです。

このとき、腸の中の液体やガスなどが移動すると、
「グーッ」「グルグル」と音が聞こえることがあります。

静かな夜に横になっていると、
昼間なら気づかなかったこうした音や動きを、
よりはっきり感じることもあります。

便やガスがたまって腸が張っていると、
腸壁が伸ばされ、その刺激を痛みとして感じることがあります。

また、腸が敏感になっている場合には、
通常なら気にならない程度の腸の動きや張りでも、
不快感や痛みとして感じることがあります。

ただし、腸が動いていること自体が痛みの原因になるわけではありません。

同じ「グルグル」という腸の動きでも、
お腹の中の状態によって、
心地よく感じることもあれば、
痛みとして感じることもあるのです。


「横になる」ことでも体は変わる

もうひとつ興味深いのは、
眠るときの「姿勢」です。

私たちは日中、
立ったり座ったりしながら過ごしていますが、
眠るときには横になります。

この「立っている」と「横になっている」という違いだけでも、体の中では変化が起こります。

立っているときには、重力の影響で
血液が下半身にたまりやすくなっています。

ところが横になると、下半身にたまっていた血液が
心臓のほうへ戻りやすくなります。

すると、心臓に戻ってくる血液の量が増え、
胸の中を流れる血液の分布も変化します。

この変化は、健康な人であれば
体がうまく調整しています。

しかし、心臓の働きが低下している場合には、
横になることで戻ってくる血液を
心臓が十分に処理できず、
肺の血管に血液がうっ滞しやすくなることがあります。

心不全の人に「横になると苦しい」という症状がみられることがあるのは、このためです。

上半身を起こすと、重力によって
血液が下半身へ移動しやすくなるため、
心臓へ戻ってくる血液の量が減り、
呼吸が楽になることがあります。

心不全などで、横になると息苦しくなり、
上半身を起こすと呼吸が楽になる状態を「起坐呼吸」といいます。

肺そのものも、姿勢によって変化します。

肺は胸郭の中にあり、
呼吸によって膨らんだり縮んだりしていますが、
立っているときと横になっているときでは、
重力による肺の広がり方や、肺の中を流れる血液の分布が変わります。

肺炎などで肺の一部に炎症が起こっている場合には、
もともとガス交換がうまくいかない部分に、こうした姿勢による変化が加わることで、
横になると呼吸がしづらく感じることもあります。

ただ横になっているだけに見えても、
体の中では血液の分布や肺の状態が変化しているのです。

そして、その状態で眠りに入ると、
活動量が下がり、自律神経やホルモンの状態も切り替わっていきます。

「眠る」というのは、
単に意識がなくなることではありません。

体の姿勢が変わり、血液の分布が変わり、
活動量が下がり、神経やホルモンの状態も変わる。

そうした変化が重なりながら、体は睡眠中の状態へ移っていくのです。


起きているときと眠っているとき、体はどう違う?

ここまで見てくると、
「眠っているときと、起きているときでは、体の働き方はどのくらい違うのだろう?」
と気になってきませんか?

そこで、いくつかの働きを比べてみました。

起きているときも眠っているときも、
心臓や肺、腎臓、肝臓、腸などが働いていることに変わりはありません。

ただし、体の活動量や自律神経、
ホルモンの状態などが変わることで、
それぞれの働き方にも変化が生まれます。

こうして並べてみると、
眠っているあいだは「何もしていない時間」ではなく、
体が活動の状態から休息の状態へ切り替わりながら、
生命を維持する仕事を続けている時間だということがよく分かります。

体の働き起きて活動しているとき睡眠中に起こる変化
心拍・血圧活動量に応じて変化する心拍数・血圧が低下する
心臓の仕事量全身の活動量に応じて増える全身の酸素需要が減り、心拍出量も低下する
自律神経活動状況に応じて変化する一般に副交感神経の活動が高まりやすいが、睡眠段階によって変化する
呼吸活動量に応じて呼吸数・換気量が変化する呼吸数や換気量が低下し、睡眠段階によって変化する
腎臓・尿水分摂取などに応じて尿をつくる抗利尿ホルモンの分泌が増え、尿量が減少しやすい
肝臓食後は栄養素を処理・貯蔵する空腹状態に合わせて血糖を維持する働きなどが続く
消化管食事に合わせて消化・吸収する空腹期の消化管運動などが続く
ホルモン活動や食事などに応じて変化する成長ホルモンなど、睡眠に伴う分泌パターンに変化する

眠っているあいだに分泌される「成長ホルモン」

睡眠と関係の深いホルモンのひとつに、
「成長ホルモン」があります。

成長ホルモンという名前から、
子どもの成長に必要なホルモンというイメージを持つ人も多いと思います。

実際、成長期には骨や筋肉などの成長に重要な役割を果たしています。

でも、成長ホルモンは大人になったら必要なくなるわけではありません。

成人でも分泌され続けていて、
タンパク質の合成や脂肪の分解、糖や脂質の代謝など、
体の組織を維持するためのさまざまな働きに関わっています。

では、この成長ホルモンは、
どこから出てくるのでしょう。

成長ホルモンを分泌するのは、
脳の底にある「下垂体」という小さな器官です。

そして、その下垂体に指令を出しているのが、
脳の「視床下部」です。

視床下部は、
睡眠や体温、食欲、自律神経、ホルモンなど、
体の状態を調整する司令塔のような役割を担っています。

睡眠中には、この視床下部からの調節を受けながら、
下垂体から成長ホルモンがまとまって分泌されます。

成長ホルモンは、一日中一定の量が出続けているわけではありません。

波のようにまとまって分泌され、
特に眠りについたあとの深いノンレム睡眠、
いわゆる「徐波睡眠」のときに、大きな分泌のピークが現れやすいことが分かっています。

つまり、単純に
「夜だから成長ホルモンが出る」というより、
睡眠の中でも、深い睡眠と成長ホルモンの分泌が結びついています。

さらに、成長ホルモンは、それだけで仕事を完結させるわけではありません。

成長ホルモンが分泌されると、
肝臓などで「IGF-1(インスリン様成長因子-1)」という物質の産生が促されます。

このIGF-1も、骨や筋肉などの成長や組織の維持に関わっています。

つまり、眠っているあいだに脳の下垂体から分泌された成長ホルモンが、
肝臓などに作用し、そこでつくられたIGF-1がさらに全身の組織に働きかける。

ひとつのホルモンが単独で仕事をしているのではなく、
脳からの指令をきっかけに、別の臓器へと仕事が引き継がれていく。

この成長ホルモンは、
大人になってからも分泌され、
代謝や組織の維持などに関わり続けています。

眠っている私たちが
何もしていないように見えるあいだにも、
脳からホルモンが分泌され、それを受け取った臓器が別の物質をつくり、さらに全身へと作用が広がっていく。

そう考えると、睡眠中の体の中では、
私たちが意識していないところで、かなり複雑な仕事が進んでいることが分かります。


おわりに

眠っていると、
一見何もしていないように見えます。

けれど実際には、心拍を落とし、
血圧を下げ、ホルモンの分泌を変え、
腎臓は水分を調整し、肝臓は血糖を維持し、
腸は静かに動き続けています。

眠っている間にも、体はそのときの状態に合わせて、とても繊細に仕事を切り替えているのです。

子どもの頃の夜の腹痛が、いったい何だったのかは、今となっては分かりません。

便秘やガスの影響もあったでしょうし、
静かな夜に腸の動きをいつも以上に感じていたのかもしれません。

ただ、あの頃は「またお腹が痛い」としか思っていなかった私のお腹の中でも、
腸はせっせと動いていたのです。

そう考えると、今になって夜のお腹のグルグルが、少し面白く感じます。

自分ではほとんど意識していないのに、
眠っているあいだも、体はそのときに必要な仕事を選びながら動いている。

そう思うと、人体って、やっぱりおもしろいですね。


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