はじめに
最近、テレビCMで
『話そう、子宮頸がん予防』という言葉を耳にする機会が増えました。
CMで女子中学生が映し出されると、
この頃から将来の健康について考える機会があるのだと、改めて感じます。
子宮頸がんは、他の多くのがんと比べて、
比較的若い年代でも発症することがあるがんです。
子宮頸がんワクチンについては、
さまざまな意見があります。
「接種した方がいい」という声もあれば、
「副反応が心配」という声もあります。
私は看護師として医療に携わってきました。
そして一人の患者として、子宮頸がんを経験しました。
「医療者だから分かること」と、
「患者になって初めて分かったこと」は、
思っていた以上に違いました。
だからこそ、
このテーマは誰かを説得するためではなく、
一緒に考える気持ちで書きたいと思っています。
子宮頸がんとは?
子宮頸がんと子宮体がんの違い
子宮がんという名前はよく耳にしますが、
実は「子宮頸がん」と「子宮体がん」は別の病気です。
発生する場所も、原因も、予防方法も異なります。

子宮頸がんの原因となるHPVとは?
子宮頸がんの主な原因は、
HPV(ヒトパピローマウイルス)というウイルスへの感染です。
HPVは性的接触によって感染しますが、
HPVに感染したからといって、
すぐにがんになるわけではありません。
多くの場合は、
体の免疫の働きによって自然に排除されます。
一方で、一部では感染が長く続くことで、
細胞の変化(前がん病変)が起こり、
その一部が子宮頸がんへ進展することがあります。
免疫とは、体の中に入ってきた
細菌やウイルスなどから体を守る仕組みで、
ワクチンは、この免疫が働きやすいように
事前に練習をさせるイメージです。
HPVは、感染しても自覚症状はありませんし、
感染してから長い月日を経てからがん化することもあり、いつ感染したのかは分かりません。
HPV感染から子宮頸がんになるまで
HPVは非常にありふれたウイルスです。
多くは自然に排除されます。
HPV感染
↓
ほとんどの場合
免疫の働きで自然に排除
↓
一部の場合
感染が長く続く
↓
前がん病変
↓
一部が子宮頸がんへ

なぜ子宮頸がんにはワクチンがあるの?
子宮体がんは、女性ホルモンの影響や年齢、
生活習慣など複数の要因が関係しており、
現在、原因となる感染症を予防するワクチンはありません。
子宮頸がんだけ特別にワクチンがあるわけではなく、
原因の多くがHPV感染であることが分かっているため、
感染を予防するワクチンが開発されました。
なぜ「子宮頸がんワクチン」と呼ばれるの?
「子宮頸がんワクチン」という名前なので、
子宮頸がんだけを予防するワクチンだと思っている方も多いかもしれません。
しかし、実際にはHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を予防するワクチンです。
HPVは子宮頸がんだけでなく、外陰がん、腟がん、肛門がん、中咽頭がん、陰茎がんなど、男女ともにさまざまながんの原因となることがあります。
そのため現在では、「HPVワクチン」という呼び方も広く使われています。
HPVには多くの種類があり、
そのうち子宮頸がんの原因となるのは主に高リスク型です。
現在日本で使われているHPVワクチンは、
子宮頸がんの原因となる高リスク型を中心に、
複数のHPV型を予防するよう作られています。
そもそもワクチンとは?
ワクチンと聞くと、どんなイメージがありますか?
乳幼児の頃には、たくさんのワクチンを受けますし、
大人になってからはインフルエンザや新型コロナ、
海外に行く先によっては、ワクチンを打つこともありますよね。
病気を未然に防ぐための1つの手段ではありますが、
ワクチンは特効薬ではないため、
接種したら絶対罹らないというものでもありません。
| 種類 | 目的 |
|---|---|
| 感染症予防ワクチン | 感染や発症リスクを下げる |
| 重症化予防ワクチン | 重症化や死亡リスクを下げる |
| HPVワクチン | HPV感染や前がん病変を予防する |
このようにワクチンは、
病気を100%防ぐものではなく、
「重症化や発症のリスクを下げる」ための医療です。
子宮頸がんワクチンも、この考え方は同じです。
子宮頸がんワクチンはいつから使用されている?
新しいワクチンに対しては、
安全性への不安や疑問が生じることがあります。
そして、子宮頸がんワクチンについても、
使用が開始された当初は特に、ニュースでも大きく取り上げられたのを覚えています。
日本での経緯と積極的勧奨の差し控え
HPVワクチンは
比較的新しいワクチンと思われることがありますが、
海外では2006年から使用が始まり、
日本でも15年以上にわたって接種されています。
一方で、日本では積極的勧奨が一時差し控えられた時期があり、
他のワクチンにはない特殊な経緯をたどりました。
2006年
海外でHPVワクチン承認
↓
2009年
日本で承認
↓
2013年
日本で定期接種開始
同年、安全性への懸念から積極的勧奨を一時差し控え
↓
2022年
積極的勧奨を再開
↓
現在
9価HPVワクチンが定期接種の中心
このワクチンについても、
副反応で苦しむ人についての情報も広がり、
どうしても「怖い」というイメージがついてしまいました。
実際、この2つのワクチンに限らず、
副反応に苦しんだり、今もなお苦しんでいるという方々もいらっしゃると思います。
私は、看護師を目指し、高校を卒業してからずっと
西洋医学を信じ続けていたこともあり、
何の抵抗もなく、何も気に留めず、ワクチンを接種し続けてきました。
けれど、
新型コロナワクチンではひどい副反応も経験し、
ちょうど色々な病気も重なって、接種しなければ良かったと何度も頭をよぎったこともあります。
これはあくまで私自身の経験であり、
子宮頸がんワクチンの副反応とは別に考える必要があります。
その時の置かれた状況での判断ではあったものの、
正直なにが正しかったのかは、いまだによくわかりません。
HPVワクチンの効果と限界
「効果がある」と言われても、
何に対して効果があるのかは意外と分かりにくいものです。
HPVワクチンは、
子宮頸がんそのものを直接治療するものではなく、
原因となるHPVへの感染を予防することで、
将来的な子宮頸がんのリスクを下げることを目的としています。
【HPVワクチンの種類と特徴】
| ワクチン名 | 予防するHPV型 | 主な対象 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| サーバリックス(2価) | 16・18型 | 主に子宮頸がん予防 | 高リスク型2種類を予防 |
| ガーダシル(4価) | 6・11・16・18型 | 子宮頸がん・尖圭コンジローマ予防 | 低リスク型も含む |
| シルガード9(9価) | 6・11・16・18・31・33・45・52・58型 | 現在の定期接種の中心 | 子宮頸がん原因の約90%に関係する型をカバー |
9価HPVワクチン(シルガード9)は、
その中でも子宮頸がんの原因の約90%に関係するとされる型をカバーしています。
HPVワクチンで期待される効果
HPVワクチンは、
子宮頸がんの原因となるHPVへの感染を予防し、
将来的な子宮頸がんや前がん病変のリスクを減らすことが期待されています。
海外の大規模研究では、
HPV感染や前がん病変だけでなく、子宮頸がん発症率の低下も報告されています。
特に、子宮頸がんの原因となることが多い
HPV16型・18型を含む、高リスク型HPVへの感染予防効果が確認されています。
ただし、ワクチンはすでに感染しているHPVを治療するものではなく、
すべてのHPV感染や子宮頸がんを100%防ぐものではありません。
そのため、接種後も検診が推奨されています。
| 項目 | 期待される効果 |
|---|---|
| HPV感染予防 | 子宮頸がんの原因となる高リスク型HPVの多くをカバーし、高い感染予防効果が確認されています |
| 高度前がん病変(CIN2以上)の予防 | 約70〜80%程度の減少が報告 |
| 高度前がん病変(CIN3以上)の予防 | 約90%程度の減少が報告 |
| 子宮頸がん発症予防 | 接種世代で発症率の低下が確認されている |
なぜ若いうちの接種が勧められるの?
HPVワクチンは、HPVに感染する前に接種することで、
より高い予防効果が期待されています。
そのため、日本では現在、
小学6年生〜高校1年生相当の女子を対象に、定期接種(公費接種)が行われています。
「若いうちだから必要」というより、
「感染する前だから効果を発揮しやすい」という点が重要です。
なぜ男性も接種するようになったの?
男性もHPVに感染します。
多くは自然に排除されますが、
一部は持続感染し、
中咽頭がんや肛門がん、陰茎がんなどの原因になることがあります。
男性自身のHPV関連疾患を予防するとともに、
将来的にはHPV感染の広がりを抑える効果も期待されています。
そのため、日本でも
自治体によっては男性への接種費用助成を行うなど、接種機会が広がっています。
日本と海外の普及率
現在、子宮頸がんのワクチンは
どのくらい普及しているのでしょうか。
日本では、2013年から約9年間、
HPVワクチンの積極的な接種勧奨が差し控えられた影響で、接種率は1%未満まで低下しました。
しかし、2022年4月に積極的勧奨が再開され、接種率は回復しています。
2024年度(令和6年度)の定期接種対象者では、
1回目接種率82.2%、2回目66.7%、3回目26.5%(速報値)となっています。
| 接種回数 | 接種率(2024年度速報値) |
|---|---|
| 1回目 | 82.2% |
| 2回目 | 66.7% |
| 3回目 | 26.5% |
出典:厚生労働省「HPVワクチンの接種状況(速報値)」
※速報値であり、今後変更される可能性があります。
そして海外では、
学校での集団接種などを取り入れている国も多く、高い接種率を維持しています。
例えば、オーストラリアでは
2024年に15歳までの女子のHPVワクチン接種率(1回以上)が81.1%となっており、世界でも高い水準です。
オーストラリアではHPVワクチン接種と子宮頸がん検診を組み合わせた対策により、
子宮頸がんの排除を目指す先進国として知られています。
また、世界保健機関(WHO)によると、
2024年の世界全体のHPVワクチン初回接種率は31%です。
一方で、高所得国では80%前後の接種率を達成している国もあり、国や地域によって大きな差があるようです。
| 地域 | 接種率 |
|---|---|
| 日本(2024年度・1回目) | 82.2% |
| オーストラリア(2024年・1回以上) | 81.1% |
| 世界平均(2024年・1回目) | 31% |
出典:Australian Government Department of Health and Aged Care
出典:WHO/UNICEF HPV vaccination coverage estimates
普及率が低いこと自体が「良い・悪い」を意味するわけではありません。
それぞれの国で医療制度や文化、性教育、情報提供の違いがあり、背景はさまざまです。
そこには、それだけ慎重に選択したいという思いもあるからだと思います。
副反応について知っておきたいこと
日本では2013年に、HPVワクチン接種後に報告されたさまざまな症状を受け、
安全性への不安が社会的に広がったことから、
厚生労働省は積極的勧奨を一時差し控えました。
その後の国内外の研究により、
接種後に報告された多様な症状について、
HPVワクチンが原因であるという科学的根拠は確認されていません。
【HPVワクチン接種後にみられることがある症状】
(頻度はワクチン種類や調査によって異なります)
| 種類 | 主な症状 | 発生頻度の目安 |
|---|---|---|
| 接種部位の痛み | 注射した部分の痛み | 約50〜90% |
| 赤み・腫れ | 発赤、腫脹 | 約20〜40% |
| 頭痛・倦怠感 | 頭痛、疲労感、だるさなど | 約10〜30% |
| 発熱 | 発熱、熱っぽさ | 数%〜10%程度 |
| 吐き気・筋肉痛など | 体調不良、体の痛みなど | 数%程度 |
| じんましんなど | 発疹、かゆみなど | まれ(1%未満) |
| 失神(血管迷走神経反射) | 注射時の緊張などによる一時的な反応 | 約0.1〜0.5%程度 |
| アナフィラキシー | 急激なアレルギー反応 | 非常にまれ(10万人あたり数人程度) |
重い症状について
HPVワクチン接種後に報告された
痛みや運動障害などの多様な症状については、
国内外で詳しく検討されています。
現在までの研究では、
これらの症状がHPVワクチンによって特別に増加するという科学的根拠は確認されていません。
また、厚生労働省の資料では、
接種後に報告された重篤な症状についても、
ワクチン接種との因果関係が認められるものは非常に少ないとされています。
HPVワクチンの副反応の多くは、
接種部位の痛みや腫れ、発熱など一時的なものです。
一方で、重い副反応は非常にまれではありますが、
どのワクチンにも一定のリスクはあります。
大切なのは、効果だけを見るのではなく、
起こりうる副反応についても正しく知ったうえで、
本人や家族、必要に応じて医療者と相談しながら納得できる選択をすることだと思います。

子宮頸がんワクチンを選択するときに考えたいこと
無料対象の年齢の際に、どう選択するのかは、
置かれている環境や本人の関心にもよって変わってきますよね。
そして、多くの場合は情報や知識にも差があるからだと思います。
無料接種の対象期間があるため、
その期間内に判断しなければならないというプレッシャーを感じる方もいるかもしれません。
ワクチンを受ければ子宮頸がんを完全に防げると思ってしまったり、
インターネットなどの情報から「本当に安全なのだろうか」と強い不安を感じたり、
アナフィラキシーの経験がある方や、副反応でつらい思いをした人を身近で見ている方など、
それぞれの背景によって、悩み方は違います。
「絶対100%こうした方がいい」
みたいなことは、ありません。
けれど、情報や知識は、
何かを選択するときに役に立つと思います。
ただ、限られた期間の中でも、
必要な情報を知ったうえで、
本人や家族が納得できる形で選択することが大切だと思います。
性教育の一環として、
子宮がんや卵巣がん、子宮内膜症など
女性特有の疾患についても話してみよう。
10歳になったら、少し情報を集めていこう。
11歳になったら、本人にも少しずつ話していこう。
そんな風に、背負いすぎずに選択していくことも良いのではないでしょうか。
また、子宮頸がんについては、
ワクチンだけではなく他の方法と組み合わせることで
病気を早期に発見できる場合もあります。
ワクチン以外の予防法
子宮頸がんの予防というと、
ワクチンだけを思い浮かべる方もいるかもしれません。
しかし実際には、ワクチンだけでは十分とはいえません。
検診や日頃の生活習慣など、
いくつかの方法を組み合わせることが、
子宮頸がん予防につながります。
なぜ検診も必要なの?
HPVワクチンは、とても有効な予防方法ですが、
すべての子宮頸がんを防げるわけではありません。
また、すでに感染しているHPVを治療するワクチンでもありません。
そのため、ワクチンを接種した方も、
定期的に子宮頸がん検診を受けることが勧められています。
ワクチンと検診は、どちらか一方ではなく、
組み合わせることでより高い予防効果が期待できます。
子宮頸がんの検診は、
自治体によって助成制度がありますし、
医療機関によっては、必要に応じて子宮体がんの検査について相談することもできます。
ただし、検診にも負担や限界があるため、
症状や不安がある場合は医療機関へ相談することが大切です。
ワクチンと検診に加えて、日常生活の中でできる予防もあります。

日常生活でできる予防
日頃の体調管理も予防につながります。
バランスの良い食事、適度な運動、
十分な睡眠や休息は、免疫機能を保つためにも大切です。
これだけでHPV感染や子宮頸がんを防げるわけではありませんが、
健康的な生活習慣は、さまざまな病気の予防にもつながります。
また、コンドームの使用は
HPV感染のリスクを減らす効果が期待されています。
ただし、HPVは皮膚同士の接触でも感染することがあるため、
感染を完全に防げるわけではありません。
さらに、喫煙はHPV感染が持続しやすくなり、
子宮頸がんのリスクを高める要因の一つと考えられています。
禁煙は子宮頸がんだけでなく、さまざまながんや生活習慣病の予防にもつながります。
そして、体調や気になる症状があれば、一人で悩まずに医療機関へ相談することも大切です。
日頃から相談できるかかりつけ医や婦人科を持っておくことは、将来の安心にもつながります。
おわりに:選択するということ
正解が一つとは言い切れません。
接種するかどうかを考える際には、
効果や安全性、本人や家族の考えなど、さまざまな情報を踏まえて判断することが大切です。
| 知っておきたいこと | 目安 |
|---|---|
| 生涯でHPVに感染する女性の割合 | 多くの女性が経験するとされる |
| 子宮頸がんになる割合 | 感染した人の一部 |
| HPVワクチンによる予防効果 | 高い予防効果が確認されている |
| 主な副反応 | 痛み・腫れなどが多い |
| 重い副反応 | 非常にまれ |
・9価ワクチン:子宮頸がんの原因となるHPV型の多くをカバー(約90%程度)
・高度前がん病変:約70〜90%減少
・重い副反応:非常にまれ
何をヒントに考えるか。
子宮頸がんになる可能性、
ワクチンによって減らせるリスク、
副反応が起こる可能性。
それぞれの数字を知ることも、選択するための材料になります。
本人の意思や、話し合うことの大切さもあります。
CMにもあるように、『話そう』が
まず予防の第一歩になります。

大切なのは、誰かの意見だけで決めるのではなく、
信頼できる情報を知り、自分や家族で話し合い、納得して選ぶことだと思います。
この記事が、そのためのヒントになれば嬉しいです。
【参考資料】
・厚生労働省(HPVワクチンQ&A・リーフレット)
・政府広報オンライン(子宮頸がんの予防に有効なHPVワクチンとは?)
・国立がん研究センター がん情報サービス
・国立感染症研究所

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