はじめに
最近、突然の雷や雨の日が多いなと感じます。
梅雨が終わったはずなのに、雨が続く。
そんな日が続くと、私は決まって眠くなります。
それに、身体がなんとなくだるい。
気怠くて、気力のわかない平坦な感情になります。
ましてや、更年期症状が目立つ日など
体調があまり良くない時には、その感覚がさらに強くなります。
以前、訪問看護をしていた頃も、
雨の日は大変な一日でした。
訪問先へ向かうだけでも、
晴れた日より体力を使います。
一日に何度もカッパを脱ぎ着して、荷物も濡れないように気をつけながら、自転車に乗ったり。
道路も滑りやすく、視界も悪いけれど、
時間は守らなければならない。
その分、休憩やトイレの時間も短くなってしまう。
訪問を重ねていくうちに、
夕方には身体だけではなく、
心まで疲れているような感覚になることもありました。
当時は、
「年や病気のせいで、辛くなったのかもしれない」
と思いながらも、「仕事だから頑張らなきゃいけない」と必死でした。
でも今振り返ると、
「仕方ない」で済ませることと、
「疲れている自分を放置しないこと」は、別だったのだと思います。
そして、単に雨の日の訪問看護は、
身体的な負担だけではなかったのかもしれません。
天気の変化そのものが、身体に影響を与えていた可能性があるのではないでしょうか。
「雨の日は体調が悪い」は、気のせい?
昔は、
「雨だから体調が悪いなんて、気のせいじゃない?」
と言われることもありました。
「天気で腰が痛くなるなんて、気持ちの問題でしょう」
「雨の日に眠いのは、ただ寝不足なだけでは?」
そんなふうに受け取られることもあったと思います。
でも現在は、
天候、とくに気圧の変化と身体症状との関連について研究が進んでいます。
こうした天候による体調変化は、
「気象病」や「天気痛」などと呼ばれることがあります。
まだ医学的にすべてが解明されたわけではありません。
けれど、「天気が悪いと、どうしても身体の調子が悪くなる」という人の訴えを、単なる気のせいとして片づけるのではなく、身体の仕組みから考えようとする研究が積み重なっています。
気圧が変わると、身体の中では何が起こる?
気圧とは、簡単に言えば、
私たちの身体にかかっている空気の圧力です。

天候が崩れるときには、
低気圧の接近などによって気圧が変化します。
この変化を身体がどのように感じ取っているのか。
その仕組みの一つとして、現在注目されているのが「耳」です。
特に関係していると考えられているのが、内耳です。
内耳には、音を聞くための器官だけでなく、
身体の傾きや動きを感じ取る「前庭」という器官があります。
近年の研究では、
内耳、とくに前庭系が気圧の変化に反応し、その情報が前庭神経を介して脳に伝わり、自律神経の働きなどに影響する可能性が、気象病のメカニズムの一つとして考えられています。
つまり、
「雨が降ると体調が悪い」という現象の背景には、
あくまで現在考えられている仕組みの一つですが、
耳 → 神経 → 自律神経
という身体の仕組みが関係している可能性があるのです。
研究では、低気圧によって交感神経活動が変化する可能性が示されています。
動物実験では、
低気圧によって痛みが増強し、その際に交感神経活動が関与する可能性が示されています。
また、人を対象とした研究でも、気象変化に伴って痛みが悪化したり、交感神経活動に変化がみられたりすることが報告されています。
そして交感神経は、心拍数や血圧、血管などの調節に関わっています。
考えられている仕組みの一つを簡単に表すと、
気圧変化
↓
内耳・前庭系への刺激
↓
脳への情報伝達
↓
自律神経、とくに交感神経活動への影響
↓
心拍・血圧・血管などの変化や、痛みの感じ方への影響
自律神経は、心拍や血圧、血管の収縮・拡張など、身体のさまざまな機能を調整しています。
そのため、自律神経の働きの変化が、めまいや動悸、頭痛などの症状に影響する可能性も考えられています。
ただし、ここは大切なところです。
気象病のメカニズムは、まだ完全に解明されたわけではありません。
内耳だけですべての症状を説明できるわけでもありません。
気圧だけでなく、
気温、湿度、睡眠、ストレス、
持病、ホルモンの変化など、さまざまな要素が重なって症状が出ている可能性があります。
「これが原因です」と一つに決めつけるのではなく、
現在研究が進んでいる段階という状況です。
気圧の変化で、どんな症状が起こる?
気象変化によって現れる症状には、
かなり幅があります。
気象変化は症状の“原因”というより、
症状を誘発・悪化させる一つの要因になり得ると言われています。
たとえば、気象変化に関連して訴えられることのある症状として以下のようなものがあります。
- 頭痛
- めまい
- 耳鳴り
- 耳が詰まったような感じ
- 首や肩のこり
- 腰痛
- 関節痛
- 古傷の痛み
- 倦怠感
- 眠気
- 集中力の低下
- 気分の落ち込み
- 動悸
などです。
もちろん、これらの症状があるからといって、
すべてが気象病というわけではありません。
頭痛なら片頭痛、耳鳴りなら耳の病気、
関節痛なら整形外科的な疾患など、別の原因が隠れていることもあります。
大切なのは、
「天気が変わると症状が悪化する」という自分の身体のパターンを知ることなのかもしれません。

「朝起きられない」ことも、単純な低血圧とは限らない
気圧の変化による不調は、
大人だけの話ではありません。
子どもの「朝起きられない」という症状にも、天候が影響することがあります。
気圧の話をすると、
私はもう一つ思い出すことがあります。
「低血圧だから、朝起きられない」という話です。
確かに血圧が低いことは、
だるさや立ちくらみなどに関係することがあります。
でも、成長期の子どもたちの
「朝起きられない」という問題を考えるときには、単純な低血圧だけでは説明できません。
思春期にみられる「起立性調節障害」という病気があります。
これは、立ち上がったときなどの身体の変化に対して、
自律神経による血圧や心拍数などの調節がうまく働かなくなるものです。
朝に症状が強く、
「起きられない」
「午前中は体調が悪い」
「頭が痛い」
「めまいがする」
「身体がだるい」
などの症状が出ることがあります。
重症になると、
学校へ行くことそのものが難しくなり、
不登校につながる場合もあります。
そして、この起立性調節障害では、
天候の変化によって、症状が悪化すると感じる人もいます。
「朝起きられない=怠けている」ではありません。
これは、子ども本人だけでなく、
家族や学校など、周囲の大人にも知っておいてほしいことでもあります。
女性は、さらに「ホルモン」という変化も重なる
そして女性の場合、
天候による体調変化を考えるとき、ホルモンの変動も一つの要素として考えておきたいところです。
月経周期ではホルモンが変動します。
そして更年期になると、女性ホルモンの分泌が大きく揺らぎながら低下していきます。
この時期には、
「なんだか身体が思うように動かない」
「イライラする」
「眠れない」
「疲れやすい」
「頭痛がする」
「気分が落ち込む」
など、さまざまな症状が現れることがあります。
そこに気圧の変化も重なると…
いつもなら何とか乗り切れる程度の不調が、
今日はどうしてもつらい。
そんな日があっても不思議ではありません。
なので私たちは、
「今日は自分の気合いが足りない」
と考える前に、
「今日は身体にいろいろな変化が重なっているのかもしれない」
と考えてみてもいいのではないかと思っています。
雨の日は「いつも通り」を目指さない
では、気圧や天候による不調に対して、
何ができるのでしょうか。
残念ながら、気圧を自分で変えることはできません。
だからこそ、私たちができるのは、
「調子が悪くなる可能性をあらかじめ知っておくこと」がポイントだと思います。
① 天気と体調を記録してみる
「雨の日は調子が悪い」という感覚だけではなく、
「気圧が下がる前に頭痛が出る」
「雨の日は眠気が強い」
「気圧が大きく変化すると耳鳴りがする」
など、自分のパターンを記録してみます。
天気予報や気圧の変化と一緒に記録しておくと、
「自分はこういう日に調子を崩しやすい」という傾向が見えてくることがあります。
② 「今日は省エネの日」と決めておく
体調が悪い日に、いつもと同じ量をこなそうとすると、
できない
↓
焦る
↓
自分を責める
↓
さらに疲れる
という悪循環になりがちです。
そういうときは最初から、「今日は省エネ運転」と決めてしまう。
家事を一つ減らす。
予定を詰め込まない。
少し横になる。
早めに休む。
それだけでもいいのだと思います。

③ 身体が心地よい環境をつくる
雨の日は、気温や湿度の変化も重なります。
夏なら冷房、冬なら気温の低下など、季節によって身体への負担も変わります。
暑すぎたり、寒すぎたりする環境を無理に我慢せず、
自分が心地よいと感じる温度や湿度を意識してみる。
夏なら薄手の羽織りものを用意する。
冬なら身体を冷やさないようにする。
季節に合わせて、身体が過ごしやすい環境を整えてみましょう。
④ 水分や食事を後回しにしない
体調が悪いと、食事や水分を後回しにしてしまうことがあります。
でも、脱水や栄養不足があると、だるさや頭痛などが悪化することがあります。
特別なことをする必要はなく、
食事を抜きすぎない。
水分を忘れない。

まずは基本的なところを大切にする。
なかなかトイレに行けないからといって、体調の優先順位を下げないようにしたいですね。
⑤ 「不調の原因探し」をしすぎない
これは、私自身にも言いたいことなのですが、
以前は、体調が悪くても
「今日はこれくらいできるはず」と、自分に予定通りの働きを求めていました。
そして「なんで今日はこんなにだるいんだろう」と考え続けると、
「昨日何かしたかな」
「運動不足かな」
「年齢のせいかな」
「私が怠けているだけかな」
と、自分を責める方向に進んでしまうことがあります。
もちろん、病気が隠れていないか確認することは大切です。
けれど、原因が一つではない身体の変化もあります。
天気、気圧、睡眠、疲労、
ホルモン、ストレスなど。
いくつもの条件が重なって、「今日は調子が悪い日」になっているだけかもしれません。
「自分のせいではない」と知ることも、セルフケア
生理前になるとイライラする。
更年期になってから、気分が不安定になった。
雨の日になると、どうしても身体が重い。
そんなとき、
「こんなことでイライラする自分はダメだ」
「もっと頑張らなくちゃ」
と思ってしまう人もいるかもしれません。
でも、身体には
自分の意思だけではコントロールできない変化があります。
ホルモンもそう。
自律神経もそう。
気圧もそうです。
だから、
「今日は身体がそういう状態なんだ」と知っておくだけでもいいと思います。
それは、
なにもかも天気のせいにすることではありません。
病気を見逃さないために必要な受診はしながら、
「自分の意思ではどうにもならない身体の変化もある」と知っておくこと。
それだけでも、自分自身への向き合い方は少し変わるのではないでしょうか。
症状が強い、長く続く、
いつもと違う症状がある場合は、「天気のせい」と決めつけず、医療機関に相談することも大切です。
おわりに:雨の日には、雨の日の身体のリズムがある
訪問看護をしていた頃。
雨の日は、確かに大変でした。
移動するだけで疲れる。
予定通りに進まない。
利用者さんの体調も気になる。
そして何件もの訪問を終える頃には、
自分自身の体力もかなり消耗していました。
当時は、疲れていても「仕事だから」と、そのまま乗り切ろうとしていました。
でも今は、疲れている自分を放置しないことも、大切なことなのだと思います。
体力が変化すると、同じことでも乗り越え方は変わってくる。
無理をして乗り切ることだけが、
頑張ることではないのです。
雨の日には、雨の日なりの身体の負担がある。
気圧が変化すれば、それに反応する人もいる。
そこに睡眠不足や疲労、
ホルモンの変化などが重なれば、
いつもよりつらくなることもある。
だから、
「今日の自分は、いつもより良くない」のではなく、
「今日は、身体に少し負荷がかかりやすい日なのかもしれない」と考えてみる。
そして、少しペースを落とす。
それも立派なセルフケアなのだと思います。
雨が降るたびに、
「また体調が悪くなる」と身構えてしまうこともあると思います。
けれど、そんな時こそ自分を責めずに、
「今日は少しゆっくり過ごそう」くらいでいい。
天気を変えることはできなくても、
雨の日の自分との付き合い方は、少し変えられるかもしれません。


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