人体って、おもしろい④|耳垢は「汚れ」じゃない?耳が自分でしていること

看護
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はじめに

普段、耳掃除はどうしていますか?

お風呂上がりに綿棒で耳の中を掃除する人もいれば、
耳かきが大好きで、毎日のように
「今日はどれだけ取れるかな」と楽しみにしている人もいるかもしれません。

反対に、
「耳なんてほとんど触らない」という人もいます。

訪問看護をしていた頃、いろいろな耳を見てきました。

毎日のように耳掃除をしている人。
ほとんど耳掃除をしない人。
カサカサした耳垢の人。
ベタベタした耳垢の人。
なぜか片方の耳だけ、どんどん耳垢がたまってしまう人。

また、耳の状態だけでなく、
耳を触られることへの反応も、人それぞれでした。

「耳掃除をしますね」と声をかけただけで、
身体がこわばる人もいます。
子どもの頃の耳の治療経験などから、耳に触れられることに強い緊張を感じる人もいました。

そして、ときどき出会うのが、
「これは……いつからこうなってたの?」
と思うほど、耳の奥から大きな耳垢が出てくる人です。

私は、これを取るのがとても好きでした。

周囲を少しずつ剥がしながら、ゆっくり、ゆっくり。
まるで耳の中から化石を発掘するように、
固まった耳垢(じこう・みみあか)が出てくることがあります。

あれは、なんとも言えない
「すっきり感」や「達成感」があるんですよね。

けれど実は、
耳掃除は、やればやるほど良いものではありません。
むしろ、耳は「そんなに掃除しなくても大丈夫」なようにできています。


耳には「自浄作用」がある

耳の穴にあたる外耳道には、
耳垢を外へ運び出す仕組みがあります。

外耳道は、
耳の入口から鼓膜まで続く筒状の通り道です。

外耳道の皮膚は、
古くなった皮膚が少しずつ外側へ移動することで、耳垢も自然に外へ運び出していきます。

耳垢は、外耳道の皮脂腺や耳垢腺などからの分泌物に、
古くなって剥がれ落ちた皮膚などが混ざってできています。

そして、この耳垢。

実は、ただの「汚れ」ではありません。
外耳道の皮膚を保護したり、
細菌やカビが増えるのを防いだりする役割があります。

つまり耳垢は、
「掃除しなければならないゴミ」ではなく、
「耳を守っているもの」でもあるのです。

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会でも、耳には耳垢を自然に外へ排出する自浄作用があるため、多少の耳垢なら無理に取る必要はないとしています。
入浴後に耳の外側や入口付近を軽く拭う程度が無難とされています。


「カサカサ」と「ベタベタ」は、どちらも正常

耳垢には、大きく分けて
乾いたタイプと湿ったタイプがあります。
カサカサしている人もいれば、
ベタベタしている人もいます。

「ベタベタしているから、耳の中が汚いのかな?」
と思うかもしれませんが、
そういうわけではありません。

耳垢の性質には遺伝的な違いがあり、
乾性耳垢湿性耳垢があります。

日本人では乾性耳垢の人が多いとされていますが、
湿性だから病気ということではありません。
耳垢にも、結構「個性」があるんですね。


なぜ、耳かきって気持ちいいんだろう?

耳かきをしていると、
なんとも言えない気持ちよさがあります。

自分で耳かきをするのも気持ちいいけれど、
誰かにしてもらうと、眠くなってしまうこともありますよね。

これには、
耳の感覚神経が関係しているのかもしれません。

外耳道の一部には、
迷走神経の枝である「耳介枝(じかいし)」が分布しています。

この神経は、耳だけでなく、
喉や胸部・腹部などにも広く分布している迷走神経の一部です。

耳の中を刺激すると、
この神経を介して「咳」が出ることがあります。

実際に、耳かきをしていると
「ゴホン」と咳が出る人がいます。
これは「耳介咳反射(Arnold反射)」と呼ばれる現象です。

では、耳を触るとリラックスするのも迷走神経のおかげなのでしょうか?

ここは、そう単純ではありません。

耳には迷走神経だけでなく、
三叉神経など複数の感覚神経が分布しています。

耳かきの気持ちよさには、
こうした神経への刺激に加えて、
触わられることそのものの心地よさや、
「誰かにケアしてもらっている」という安心感など、
いくつもの要素が関係していると考えられます。

「耳を触ったら咳が出る」という
一見関係なさそうな現象も、
実は神経を通してつながっている。

こういうところを知ると、
人体ってやっぱりおもしろいなと思います。


耳かきのしすぎで、逆に耳を傷つけることも

「耳がかゆいから」
「耳垢がたくさん溜まってる気がするから」
「耳掃除をすると気持ちいいから」
「毎日の習慣だから」など

さまざまな理由で、ついつい奥まで耳かきを入れてしまうことがあります。

でも、外耳道の皮膚はとてもデリケートです。

強くこすったり、
何度も耳かきをしたりすると、
皮膚を傷つけて炎症を起こすことがあります。

さらに、耳垢を外へ出すつもりが、
逆に奥へ押し込んでしまうこともあります。

耳垢が固まって耳の穴をふさいでしまう「耳垢栓塞」につながることもあります。

耳かきのしすぎで「外耳炎」になることも

耳かきをしすぎて外耳道の皮膚に傷がつくと、
そこから炎症を起こして外耳炎になることがあります。

耳の痛みやかゆみ、耳だれなどが出ることがあります。

「耳がかゆいから耳掃除をする」

「耳掃除をして傷つく」

「炎症が起きて、さらにかゆくなる」

という、ちょっと困ったループに入ってしまうこともあります。

そして、ここで少し紛らわしいのが中耳炎です。

耳かきで傷つきやすいのは、
主に鼓膜より手前の外耳道です。

一方、
中耳炎は鼓膜の奥にある中耳に炎症が起こる病気で、
風邪などをきっかけに、鼻や喉から炎症が広がって起こることがあります。

つまり、
耳かきのしすぎで起こりやすいのは外耳炎です。
中耳炎は、起こる場所もきっかけも違います。

外耳炎中耳炎
炎症が起こる場所外耳道(耳の入口から鼓膜まで)鼓膜の奥にある中耳
主なきっかけ耳かき・綿棒などによる傷、細菌感染など風邪などをきっかけに、鼻や喉から感染が広がることなど
痛み耳を触ったり、引っ張ったりすると痛みが強くなることがある耳の奥がズキズキ痛むことがある
かゆみ出やすいあまり典型的ではない
耳だれ(耳漏)起こることがある起こることがある
聞こえにくさ炎症や腫れなどで起こることがある起こることがある
発熱通常は目立たない発熱を伴うことがある

耳の痛み、耳だれ、聞こえにくさ、発熱などがある場合は、耳掃除を続けるのではなく、耳鼻咽喉科で診てもらいましょう。


そして、耳掃除にはもう一つ怖いところがあります。

耳掃除をしている最中に、誰かがぶつかること。

「ちょっと耳かきをしているだけ」と思っていても、耳の中は意外と繊細なのです。

耳かきで鼓膜が破れたら、もう元には戻らない?

そんなことはありません。

鼓膜には、傷ついた部分を
自然に修復する力があります。

耳かきなどによる外傷性の鼓膜穿孔は、
多くの場合、自然に閉じていきます。

ただし、すべてが自然に治るわけではありません。
痛みや出血、聞こえにくさ、めまいなどがあれば、耳鼻咽喉科を受診しましょう。

「破れたら終わり」ではなく、
自分で修復しようとする力を持っている。
これも、人体の面白いところです。


訪問看護で出会った「耳の中の発掘」

とはいえ、訪問看護では、
「これは、さすがに取ったほうがいいな」という耳に出会うこともありました。

耳垢がみっちりたまって、
耳の穴をふさいでいるような場合です。

つい一気に取りたくなりますが、
無理に引っ張ってしまうと、外耳道を傷つけたり、出血させたりする可能性があります。

特に、血液を固まりにくくする薬を飲んでいる人や、
出血しやすい人、耳の痛みや炎症がある人などは、
自己判断で耳掃除をするのは避けたほうが安心です。

耳垢が詰まって聞こえにくい、痛みがある、
出血している、耳だれがあるなどの場合は、耳鼻咽喉科で診てもらうほうが安全です。
「自分で取らなければ」と頑張らなくても、耳鼻咽喉科なら専用の器具で処置してもらえます。


おわりに

耳垢があれば、取りたくなる。
かゆければ、掻きたくなる。
汚れているように見えれば、きれいにしたくなる。

でも、耳は何もしていないわけではありません。

耳垢を作り、外へ運び出し、
外耳道を守りながら、毎日音を受け取っています。

だから耳掃除は、
「きれいにする」より「いじりすぎない」ことのほうが大切なのかもしれません。

耳の中までピカピカにしなくても、
耳はちゃんと働いてくれています。

人体って、やっぱりおもしろいですね。


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